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東京地方裁判所 昭和35年(ヨ)2165号 判決

北海道苫小牧市弥生町一丁目四番一号

申請人 吉住秀雄

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 佐伯静治

渡辺正雄

藤本正

彦坂敏尚

林信一

南山富吉

伊藤公

東京都中央区銀座四丁目七番五号

被申請人 王子製紙株式会社

右代表者代表取締役 田中文雄

右訴訟代理人弁護士 孫田秀春

浦部全徳

高梨好雄

田村誠一

拓植欧外

河村貞二

主文

一  本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  訴訟費用は申請人らの負担とする。

事実

第一節  申立

一  申請人ら

1  申請人田原賢蔵、同皆川光男が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は申請人吉住秀雄に対し金一一九五万〇三七四円及びこれに対する昭和四四年三月一九日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を仮に支払え。

3  訴訟費用は被申請人の負担とする。

との判決を求める。

二  被申請人

主文と同旨の判決を求める。

第二節  当事者双方の主張 }別冊(その一)記載のとおり。

第三節  証拠関係

理由

第一款 申請人らと被申請人間の雇用関係、懲戒解雇の意思表示並びに王子労組の組織等

1  本件雇用関係の存在(申請の理由一、1)並びに被申請人が申請人らに対し昭和三五年一〇月二五日付をもって懲戒解雇の意思表示をしたこと、本件争議当時における王子労組の組織等が被申請人主張のとおり(第一、一)であったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  ≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人の本件争議当時の資本金は三二億円であって、苫小牧工場においては、主として新聞用紙を生産し、その生産高はその他の用紙を含めて一日約七〇〇トン、月間約一万七七〇〇トンであって、右新聞用紙の生産高は全国生産の約三〇%を占め、また春日井工場においては、上質紙、純白ロール紙、包装紙等を生産し、その生産高は一日約一七〇トン、月間約四二〇〇トンであって、主力製品である上質紙の生産高は全国生産の約一五%を占めていたこと、なお、当時における被申請人の従業員数は、本社において約三四〇名、苫小牧工場において約三三〇名、春日井工場において約一一一〇名であったことが認められる。

3  ≪証拠省略≫を総合すれば、(一)本件争議当時における王子労組は、被申請人会社における唯一の労働組合であって、右争議当初においては組合員総数約四四九〇名(東京支部約二六〇名、苫小牧支部約三二七〇名、春日井支部約一〇六〇名)を擁し、その加盟していた総評傘下の全国紙パルプ産業労働組合連合会(紙パ労連、当時における加盟組合数七〇組合、右組合員総数約五万一〇〇名)内部においても、王子労組員が占める割合(約九%)及び従来右連合会のいわゆる三役は王子労組出身者によって占められてきた実績から見ても、いわばその中核的組合たるの地位を保有していたのであるが、本件争議の過程において王子労組を脱退する組合員が相次ぎ、右の脱退者らによって被申請人本社においては、昭和三三年八月四日王子製紙本社労働組合(本社新組合)、苫小牧工場においては、同月八日王子製紙工業新労働組合(苫小牧新組合)、春日井工場においては同月一一日王子製紙春日井工場労働組合(春日井新組合)がそれぞれ新たに結成され(右のとおり脱退者が相次いだこと及び右新組合結成の事実については当事者間に争いがない。)、爾来王子労組の組合員数は、次表〈表省略〉記載のとおり減少の一途を辿り、昭和四四年二月には一二五名となるにいたったこと(この間の昭和三七年六月における組合員数が約三五〇名となったことについては当事者間に争いがない。)、なお、右の三新組合は、その後昭和三三年一二月二五日に王子製紙新労働組合連合会を結成し、昭和三五年一月二六日には苫小牧工場における新組合員の数が、また同年二月三日には春日井工場における新組合員の数がそれぞれの工場の同種の労働者数の四分の三以上を占めるにいたったこと、以上の事実が認められる。

第二款 被申請人と王子労組間の労使関係並びに本件争議経過の概要

第一昭和三一年以前の労使関係

≪証拠省略≫を総合すれば、本件争議の窮極的な争点を形成するにいたった被申請人と王子労組間の労働協約は、昭和二九年六月一一日に締結され、その後組合業務専従者、労災補償及び傷病扶助に関する諸規定につき若干の改訂が加えられた以外は、そのままの形で更新を重ねて本件争議に及んだのであるが、王子労組は、昭和二八年春の賃上闘争においてほぼ二一日間のストライキを行って以後昭和三一年まではストライキは行わなかったし、また当時における被申請人の賃金ベース及び従業員に対する賞与額は、次各表記載のとおり同業各社に対し常に高額であったこと等もあって、この間被申請人が昭和三一年三月王子労組に対し提案した苫小牧工場における二〇八インチ・マシン及び春日井工場における木釜増設工事の資金需要を賄うこと等を理由とする休日を指定して与える方法により二週間に一回休日操業を行うことを内容とする操業方式改訂案の採否をめぐる若干の紛議等があったほかその労使関係は、ほぼ平穏に経過したことが認められる。

第二昭和三二年における労使関係

≪証拠省略≫を総合すれば、

1 王子労組は、前年の昭和三一年一一月一七日被申請人に対する年末一時金要求に際し、被申請人が昭和二五年に行った緊急人員整理(いわゆるレッド・パージ)にともない特別退職手当を受領して任意退職した一一名の旧従業員の復職を要求し、右復職要求に対しては、被申請人が同年一一月二二日王子労組に対し、右問題はすでに解決済であるとして団体交渉の議題とする意図のないことを明らかにしたところ、王子労組は、右復職要求を未解決事項として次年度に持越すとして、昭和三二年三月八日の被申請人に対する賃金要求と併せて再び右の復職を要求し、ついで同年三月二九日には右賃金要求と復職要求とについて、いわゆるストライキ権を確立し、同年四月三日午後二時から全事業場一斉二四時間ストライキを決行したこと、そのため、被申請人は、翌四月四日の団体交渉において王子労組に対し、右復職要求には応じられないが、前記の退職者に生活困窮者があれば恩恵的な援助を行う用意があることを表明し、その結果王子労組もこれを了承して右復職問題は一応落着するにいたったが、王子労組が右のように、すでに関係当事者間において解決済の事項を労働組合として取上げ、その要求実現のためにストライキを行うがごとき事態は、かつての労使関係には見られないものであったこと、

2 一方、この間昭和三二年三月一日春日井工場において、蒸解薬品回収係の従業員四名がコンデンサーの排水口の工事中高濃度の硫化水素ガスの中毒により、内三名が死亡し、一名が重体に陥る事故が発生するにいたったため、王子労組は、同年三月八日被申請人に対し、業務上の災害による死亡者又は傷病による退職者に対する退職手当につき特別退職手当制度の新設を前記の春闘要求に緊急追加し、右要求については被申請人との団体交渉の結果、被申請人は労働災害の被災者に対しては、所定の労災補償額の五〇%ないし一〇〇%に当る金員を特別退職手当として支給するほか、右特別退職手当を除く退職手当については、その最低額として金五〇万円を保障することで交渉が妥結するにいたったこと、ところが王子労組は、同年六月における労働協約の改訂期に際し、右労働協約八八条において、被申請人の工場事業場における安全、保健及び衛生問題に関する被申請人の諮問機関であって労使双方の委員をもって構成すると規定されていた安全衛生委員会を「被申請人の工場事業場に会社、組合双方の委員をもって構成する安全衛生協議会を設け、会社は安全衛生協議会において安全衛生の対策方針、実施計画並びに実施状況の説明を行い、組合は右の事項に関し、意見の開陳又は提案を行うことができる。」旨改訂すると同時に右協議会において協議の整わなかった事項は団体交渉事項とするよう提案するにいたったが、被申請人は、工場事業場における安全衛生管理は被申請人の責任において実施すべきものであるとして、これを王子労組の要求にしたがい団体交渉事項とすることを拒否し、結局、被申請人が今後労働災害を絶滅する体制を確立するため、新しい労使機関を検討することとして、前記の労働協約上の安全衛生委員会制度の改訂案に対する被申請人の態度は留保する旨を明らかにし、王子労組もこれを了承するにいたったが、被申請人において右検討中の同年八月一二日に苫小牧工場において変電係の従業員が蓄電器の充電試験中作業合図の誤認と電圧確認の不充分による電路短絡事故によって重度の火傷を負い、その翌日に死亡する事故が発生するにいたったこと、そして被申請人は王子労組に対して九月二五日被申請人の新安全衛生組織案を提示するとともに、一〇月二三日の団体交渉において、各工場における現行の諮問機関である安全衛生委員会を廃止し、労使の協議制度として事業場ごとに設けられている工場協議会の専門委員会的機関としての安全衛生協議会を新設し、組合の意見を充分に聴取し得る機会を持つとともに中央における労使の協議機関である労経協議会(協約三四条によれば「労経協議会において意見の一致を見た事項については、特に事情変更がない限り実施義務を負う。」旨定められていた。)の議題に安全衛生の問題をも取入れることにする改訂案を提示したが、王子労組は安全衛生問題を労使間の団体交渉事項にすべきであるとの主張を固執し、一〇月二六日には王子労組によってその交渉が一方的に打切られ中断されるにいたったこと、

3 王子労組は、同年一一月一日の第二六回中央委員会において右安全衛生に関する協約改訂問題を同年の年末闘争に組入れることを決定し、同月四日被申請人に対し、同年の年末一時金として七万〇三八〇円を要求すると同時にその回答期限を同月一一日と指定し、かつ右安全衛生問題についても右年末一時金の要求と同時解決したい旨を申入れるにいたったこと、右のように王子労組が一一月四日という早い時期に年末一時金要求を提出したこと及び被申請人に対してその回答期限を指定したことは、従来の王子労組にはなかったことであり、また年末一時金要求に対する被申請人の回答は、例年一一月下旬から一二月上旬にかけて行われていたのであるが、右のように一時金要求を早期に提出しその回答期限まで指定するにいたったのは、紙パ労連は、昭和三二年の春闘以来加盟各単組からストライキ指令権限を紙パ労連中央闘争委員会に委譲させる方法によって統一闘争を行うようになっていたが、紙パ労連の第一波の統一闘争日は、王子労組の要望によって当時すでに同年一一月二一日に設定されており、王子労組としては、右統一闘争日にストライキを行う必要があったからにほかならなかったこと、そして、被申請人は王子労組の右年末一時金要求の受理に際し、それに対する回答は、例年どおり一一月下旬にしたい旨を明らかにしたこと、

4  この間同年一一月三日には、苫小牧工場において第三抄造係のカンバス取替作業中従業員伊藤定美がカンバスロールに両脚を巻込まれて死亡する事故が発生し、王子労組は、同年一一月四日の団体交渉において被申請人に対し「一一月六日に行われる右死亡従業員の工場葬には被申請人の責任において苫小牧支部組合員全員を参列させる。」よう要求するにいたったが、被申請人が翌五日にこの要求を拒否したところ、王子労組は、同日午後五時になって本闘委通達第一号をもって「会社は年末一時金並びに協約改訂を含む安全衛生対策の回答を遷延しようとしている。然も、兼ねての組合の要求にも拘らず安全衛生対策を怠って来た為、ここに本年五人目の殉職者を出すに至った。我々は交渉を促進し且つ続発する災害に対する抗議と殉職者の霊を慰める為にも機を逸せず実力行使をすることを必要と認めた。依って指令第三号を発する。」としたうえ、同日付本闘委指令第三号をもって「各支部は同盟罷業権の行使及び紙パ委譲に関する一般投票を一一月八日より行い、一一日午後三時まで投票結果を本部に報告せよ。」と指令するにいたったこと、そして王子労組は、翌一一月六日には被申請人に対し「一一月一一日以降争議権行使の自由を留保する。」旨の労働協約一九条所定の争議行為の予告をし、ついで一一月一一日には、前記本闘委指令第三号に基づくストライキ権を確立して翌一二日の団体交渉開始前に被申請人に対し、一一月一四日には全事業場一斉の三時間ストライキを行う旨通告し、右一二月の団体交渉において、被申請人が王子労組に対し、前記年末一時金の要求に対する回答は一一月下旬の最も早い時期に行う旨を明らかにしたが、王子労組は一一月一四日には「慰霊スト」を称して前記通告どおり全事業場一斉三時間のストライキを行うにいたったこと、

5  次いで、前記年末一時金要求に対する被申請人の回答を促進するためとして、一一月一五日王子労組は被申請人に対し、一一月一七日春日井工場において、同一八日は苫小牧工場において、いずれも休日あけの操業開始に当っての出勤時間前の抄出作業のための時間外勤務拒否のストライキを行う旨通告し、翌一六日の事務折衝において、被申請人は王子労組に対し、王子労組が、年末一時金要求に対する被申請人の回答前にストライキを行ったことは遺憾であること、また更に一七日、一八日のストライキを行うという王子労組の態度についても理解し難いものがあることを指摘するとともに、被申請人としても年末一時金要求に対する回答の時期を再検討せざるを得ない段階になってきている旨を明らかにしたが、王子労組は、前記通告どおり一一月一七日には春日井工場において、翌一八日には苫小牧工場において、それぞれ時間外勤務拒否のストライキを行い、翌一一月一八日被申請人に対し、一一月二一日(紙パ労連の第一波統一闘争日であったことは前記のとおりである。)に二四時間の一斉ストライキを行う旨通告して右一一月二一日には通告どおりのストライキを行い、更に右一一月二一日には被申請人に対し、一一月二三日苫小牧工場において、一一月二四日は春日井工場において、それぞれ二四時間のストライキを行う旨通告し、次いで一一月二二日には、一一月二六日(紙パ労連第二波統一闘争日)全事業場一斉二四時間ストライキを行う旨を通告し、一一月二三日及び一一月二四日には右通告どおりの二四時間を行うにいたったこと、そこで被申請人は、一一月二五日の事務折衝において王子労組に対し「被申請人は労使の平和的な状態と従業員の希望を考慮して一一月下旬に賞与の回答を行うことを申入れていたが、その回答期に入って組合が回答を待たず、次々と実力行使を行うような現在の状態においては回答を行い得ない。」旨の態度をメモによって闡明したが、王子労組は、「組合は一二日以降いつでも実力を行使しうる状態にあったにもかかわらず、会社の言を最大限に考慮して二〇日まで待った、続発する災害に対する組合員の不満を無視し、前言をすべてひるがえし交渉日すら忌避して実力行使に追い込んだのは会社である。さらにスト権すら規制しようという考え方には到底納得できない」として反撥し、一一月二六日には前記通告どおり二四時間の一斉ストライキを行い、更に一一月二八日(紙パ労連第三波統一闘争日)には同日付の通告をもって同日午後二時から二四時間の全面ストライキを行うにいたったこと、その後一二月二日の団体交渉において、被申請人は王子労組の質問に答え、年末一時金要求に対する回答時期について「会社は先日の会社メモにある通り『回答期に入って次々と実力行使を行う状態においては回答できない』という態度に変りはないが、すでに一二月に入って時間的にも切迫している事でもあり、組合から回答期日についてなんらかのメドでも示してほしいという話もあったので、今週一杯模様を見てその上で回答できる状態と判断すれば、できるだけ早く回答するようにしたい。」旨を明らかにしたが、王子労組は、すでに一二月一日に団体交渉における被申請人の態度いかんによっては一二月三日以降四八時間のストライキを行うことを決定していたため、右一二月二日の団体交渉における被申請人の態度を不満とした王子労組は、同日夕刻被申請人に対し翌一二月三日以降四八時間の一斉ストライキを行う旨通告して右通告どおりのストライキを実施し、右ストライキが終了した翌日の一二月五日には、一二月一一日以降重ねて七二時間の一斉ストライキを行うべき旨を通告するにいたったこと、そして、その後一二月九日及び一〇日と団体交渉が重ねられたが、この間において被申請人が、王子労組が一二月一一日以降に予定された前記のストライキを中止することを条件として一二月一一日に王子労組の年末一時金要求に対する回答を行う旨の態度を明らかにするにいたったため、王子労組も右ストライキを中止すべき旨を指令し、被申請人は、翌一二月一一日王子労組に対し、年末一時金の要求に対しては五万八四〇〇円を支給する旨回答するとともに前記の安全衛生に関する労働協約の改訂については、一応現行協約どおりとし今後労使協力して災害防止のためによりよいものに改めて行きたい旨を提案するにいたったこと、右年末一時金要求に対する被申請人の回答額は、同業各社間における最高額(被申請人に次ぐ高額回答社十条製紙株式会社の年末一時金要求についての労使間の妥結額は五万五五三九円)であり、当時好況といわれた自動車、重工業、電機業界各社における年末一時金要求についての妥結額よりも高額であったこと、

6  被申請人の右回答に対して王子労組は「われわれの忍びがたきを忍んで示した誠意に対し、全くうらぎる回答をもって答えてきた」とし「本闘委は、この段階における会社の態度は、不誠意極まるもので、明らかに挑戦的である。われわれの早期円満解決の期待も破られ、今後の誠意も認められない以上、徹底的に闘う以外ないと満場一致決定した。」として、翌一二月一二日午前七時から一二〇時間の一斉ストライキに突入し、更に、一二月一六日午後四時五〇分から団体交渉が行われ右交渉において王子労組は年末一時金及び安全衛生問題につき引つづき交渉したいとしながら当日の団体交渉終了後被申請人に対し同日午後四時に一二月一八日以降七二時間の一斉ストライキ、一二月二三日以降七二時間の一斉ストライキを指令した旨のストライキ通告をし右通告どおりストライキを実行したこと、そして、その間一二月一九日、二一日、二三日並びに二四日と団体交渉が重ねられたが事態は一向に進展せずに経過したが、この間王子労組の本闘委は、一二月二四日、二五日に争議についての妥結権をもつ中闘委を招集し、その席において越年闘争を提案するにいたったが、中闘委における論議は交渉による局面打開に集中し、本闘委が提案した越年長期闘争態勢確立の議題は棚上状態とされるにいたったため、本闘委は情勢分析の誤りを認めざるを得ないこととなって右越年闘争に関する提案を撤回して争議の終結を提案し、王子労組は、右中闘委の結論に従って、一二月二五日の団体交渉において、被申請人に対して、年末一時金並びに安全衛生に関する協約問題については不満ではあるが、いずれも被申請人の回答通りで了解した旨の態度を明らかにし、次いで一二月二七日労使間において年末一時金は一二月一一日の被申請人回答どおり五万八四〇〇円、労働協約上の安全衛生問題については一二月二三日被申請人が提案したとおり「死亡事故が発生した場合については従来の実績と慣行を尊重する。」旨の了解事項に調印することになって、昭和三二年における年末闘争は終結するにいたったこと、

7  そして、王子労組が以上のように年末一時金等の要求について被申請人が回答を行う以前においてストライキ権を確立し、現実にもストライキを行ったこと、前記のように慰霊ストとして時限ストライキを行ったこと及び断続的なストライキを行ったことは、かつての王子労組に見られず昭和三二年度の年末闘争において初めて行われたものであったこと、

以上の事実が認められる。

第三本件争議経過の概要

一  王子労組の賃上要求から労働協約の失効まで

1  ≪証拠省略≫を総合すれば、王子労組は、昭和三三年の春闘においては、まず二月二二日苫小牧において開催された中央委員会において、後記のとおりの被申請人に対する賃上要求案を確定すると同時に右要求貫徹のための闘争方針として即時闘争体型を確立すること、特にストライキ権行使可否の全員投票の時期判断については本闘委に一任すること、ストライキ指令権を紙パ労連に集約することを決定し、かつ「去る年末闘争の経験は、我々に幾多の反省と教訓を与えた。要約して、それはもうける為には労資の信義はもとより我々の生活は何ら顧みないという資本の冷酷さを知った事であり、組織的には我々王子がいかに力があってもそれが巾広い階級的闘争に発展しない限り、要求の獲得は困難であるという紙パ統一闘争前進への理解と共に闘いは組合員一人一人の理解の中から推し進めるべきであることを再確認したことであった。我々は今この反省と教訓に基き、賃上げと退手増額を掲げて春季闘争に立ち上った。しかし我々の前面には過剰生産に起因しての不景気の影と更にこれを誇大に宣伝することによって組合員の萎縮をひき起そうとする資本家の不況攻勢が立ちはだかっている。現にこの不況攻勢は社内報を利用する眼からの宣伝の域を超え、直接肉体を通じて不況を感じさせようとするロコツな手段が休日出勤や、時間外規制となって現われている。彼等はこの時間外規制についてうまい事を言っている。曰く『増設による借金の負担と原材料等諸経費の増高に加えて、この不況に際会したのだ。この不況は確かに過剰投資による過剰生産ということもあろうが紙パ産業もこれで一応必要とされていた増設を終ったわけであり、いわばこの不況も産業の推進の過程に於ける一時的な現象である。増設も一段落したし経費節減ということもあり、これを機会に従来の変則な操業方式や勤務時間を正す必要があろう』と、神武景気という稀代の好況に酔いながら企業間の競争で増設に明け暮れた資本家の無計画さが今回の不況を招いた事は彼等が認める通り疑いのない事実である。して見れば我々には全く責任のない事であり且つこれが一時的な現象とあればその不況切り抜けを我々に転嫁する何の理由も正当性も無い筈である。しかるに低賃金なるが故に休日出勤や時間外に依存せざるを得ない我々の生活実体を無視し、且つ増設、増産でシャニムニ働らかせて来た生産への協力を一挙に規制しようとするやり方は単に操業方式や勤務形態の正常化というキレイ事で済されぬ問題である。思えば昭和二八年にも現在のような時間外の極端な規制を行い、我々の生活に異常な混乱をひき起した事があった。かかる歴史的経緯から彼らが操業方式と勤務時間の正常化を考えているのであれば先ず彼等の経営拙劣によって招いていた時間外や休日出勤に頼らなければならぬ低賃金の実態を正し更に常に危険を伴う老朽設備の改善を計るのが先決である。この裏付けなくして如何にキレイ事で飾ろうとも我々はそれが不況のしわ寄せであり、否、不況をテコとしての春闘えの攻撃と受けとらざるを得ない。今次春闘にとりあげた要求は額からみてもかかる会社の無暴な経営施策によって引下げられた生活基盤の失地回復に外ならない。我々はこのさゝやかな要求を勝ちとるため、自信と確信のもと紙パ統一行動により闘い抜く事を決議する。」旨の「闘争宣言」を採決し、春闘要求実現のため紙パ労連の統一闘争によってその闘争を展開する姿勢を闡明するにいたったことが認められる。

2  そして王子労組は、昭和三三年二月二八日被申請人に対して、賃金増額(正規従業員一人平均二二八八円)、退職手当支給率の一部改訂(勤続二五年以上のものにつき支給率引上げによる増額及び最低保証額制度の新設)及び結婚祝金増額(従来勤続年数により七〇〇〇円より一万五〇〇〇円であったのを一律二万円とする)を要求し、被申請人は、これに対し三月二四日の団体交渉において、賃金については平均昇給七二七円を認め、退職手当、結婚祝金については従来どおりとする旨回答するとともに、右賃上の前提条件として新操業方式の採用を提案し、新操業方式の採用に伴い操業手当とし平均三二六円を支給すべき旨を明らかにしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

3  被申請人が主張する第二款、第三項、第一、二の2の事実中、紙パルプ業界が昭和三三年初頭から経済不況の影響を受けていたこと、当時紙パルプ各社の賃金は、わが国の賃金水準の中でも高位にあり、わけても被申請人の賃金は同業他社に比して高額であったこと、当時における被申請人の操業方式が被申請人の主張するとおりの全従業員一斉週休制であって、右操業方式のもとにあっては修理保全の職場に勤務する従業員は機械の休転日に勤務する必要を生じ、その結果右職場の従業員の時間外、休日勤務給が他の職場の従業員に比し多いという不均衡があったこと、被申請人の提案した新操業方式が被申請人の主張するとおりであって、右操業方式によれば被申請人の操業効率は向上し、かつ機械の休転日を修理保全の職場の従業員の出勤日に充てうること及びその結果前記の時間外、休日勤務給による給与の不均衡は是正され得るものであること、以上の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、右の給与の不均衡の是正については、労使双方の委員によって組織された被申請人の諮問機関である賃金調査委員会によっても昭和三一年以来調査検討が進められ、かつ指摘されていたところであったし、当時被申請人は、前記の経済不況の影響により、殊に被申請人の主製品である新聞用紙については同業各社の設備増設に伴う生産過剰によって競争激化の傾向にあったため、四月一日以降その建値をポンド当り一円下げて右競争に対処せざるを得ない情勢にあり、王子労組の賃上要求についての対応は、右のような不況下における賃金増額であったため、できる限り右の給与の不均衡を是正する必要があったことから、賃上要求にまつわる賃金問題解決のための前提条件として王子労組に対し新操業方式の採用を提案したものであったこと、なお、当時紙パルプ業界においては、すでに被申請人をのぞく各社のほとんどが次表〈表省略〉記載のとおり一三日以上連続して操業するいわゆる連操方式を採用していたこと及び被申請人においても王子労組に対し次表〈表省略〉記載のとおりの四回を含め合計五回にわたって連続操業方式採用の提案をしたが、そのうち第三回目の提案が昭和二六年の年末一時金要求の解決条件として採用され、昭和二七年二月から一〇ヶ月間の期限付で実施されたことがあるにとどまり、その余の提案はいずれも王子労組の反対によって実現するにいたらなかったこと(右のとおり被申請人が、すでに昭和二六年以来五回にわたって王子労組に対して操業方式の改訂を提案したが、そのうち第三回目の提案が昭和二六年の年末一時金要求の解決条件として採用され、昭和二七年二月から一〇ヶ月間の期限付で実施されたことがあるほか、いずれも王子労組の反対によって実現しなかったことは当事者間に争いがない。)、また、新操業方式が採用された場合、従来被申請人の製造職場においては、従業員を一番方から三番方までに三分し、その交替によって二四時間連続操業をしていたのであるが、新操業方式によれば、それまで三番方に所属していた従業員が二番方に移る際又はそれまで二番方に所属していた従業員が一番方に移る際に、退勤時から次出勤時までの非就業時間が七時間しかなくなる場合も生じ、それが新操業方式採用の場合に生ずる一つの難点とされていたことが認められる。しかしながら右各証拠を総合すれば、右のような事態は、概ね六週間に一度生ずるにすぎないのみならず、当時被申請人が採用していた一斉週休制の操業方式のもとにあっては、抄紙機休転前のいわゆる「抄終い」及び抄紙機運転開始前の「抄出し」作業は、いずれも製造職場の従業員の時間外勤務によって賄われており、しかも右抄出し、抄終い作業は抄紙機休転回数に対応して月四回ないし五回必要とされていたのであるが、新操業方式採用の場合、前記のように抄紙機休転回数の減少に伴い右抄出し等の作業は月当り二回ないし三回で済み、しかも勤務時間内における処理が可能となる結果そのための時間外勤務が不要となるのみならず、紙パルプ産業を含めた機械設備によって原料から製品まで連続一貫して生産するいわゆる装置工業にあっては、労働力の需要は、機械停止時及び起動時に最も多くなるのが一般であって、機械運転中は、むしろ監視作業が中心となる関係上、全体として見た場合、新操業方式の採用が、かえって製造職場の従業員の労働負荷を減少させる利点をも含むものであること、以上の事実が認められる。

4  そして、被申請人は、右三月二四日及び翌二五日並びにこれにつぐ数次の団体交渉において、王子労組に対し右回答及び提案の趣旨及び理由を説明したが、王子労組は新操業方式採用の問題を賃上要求に関する交渉から分離すべきことを主張して譲らず、三月三〇日に賃上要求についていわゆるストライキ権を確立し、四月三日の団体交渉においては新操業方式自体に反対する態度を明らかにし、四月一五日には新操業方式採用反対の組合員の意思集約を行い、四月一六日の団体交渉においては文書をもって新操業方式の採用に反対することを明らかにしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

5  その後被申請人は、四月一八日の団体交渉において王子労組に対し、賃上要求と新操業方式採用の同時解決を前提として操業手当のみならず賃金についても増額を考慮する用意のあることを明らかにしたが、王子労組は当初の主張を譲らず、同日「組合要求を貫くためには、長期の展望と柔軟な戦術を考えながら実力行使に入らざるを得ない」旨の態度を決定し、第一波の闘争として四月二三日から四月二八日にいたる間東京、苫小牧及び春日井の各支部において部分ストライキ及び一斉ストライキを交互かつ断続的に実施すべき旨を決定し、ついで四月二三日にも団体交渉が行われたが、結局右交渉は決裂し、王子労組は、四月二四日から四月二八日まで東京、苫小牧及び春日井の各支部において、一斉ストライキ又は部分ストライキを交互にかつ反覆継続して行い、四月二九日更に被申請人に対し、第二波(各支部において五月三日から五月八日まで一斉ストライキを含む重点部分ストライキ)及び第三波(各支部において五月一二日から同月一七日まで一斉ストライキを含む重点部分ストライキ)の争議行為を行うべき旨通告するとともに、現実には五月四日から同月七日まで苫小牧、春日井の両支部において、一斉ストライキ、部分ストライキを反覆継続して行い、そして、被申請人も右の各ストライキに対抗してロックアウトを行ったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人と王子労組間の労働協約においては、後記のとおり争議行為の予告については「争議行為を行う場合には、少くとも五日前に相手方に通知しなければならない。」と規定するのみであって、個別的かつ具体的な争議行為についての予告制度は採用されていなかったにもかかわらず、王子労組は、従来具体的な争議行為を行う場合においては、原則として遅くとも一二時間前までにはその旨を被申請人に通告するのを例としていたのであるが、王子労組は、右第二波及び第三波のストライキを設定実施するに当っては、四月二九日の午後二時の本闘委通達第三号をもって「就業規則の改訂を解決のカギと称して、我々の総意を踏みにじり、遂に最悪の事態に追込んだ会社は、その後何ら反省の色を示さず逆に協約をも無視する対抗措置を講じたり、争議権を不当に抑圧する挑発的行為に出てきている。本闘委は、かかる会社のごうまんな態度から今後の闘争戦術を検討の結果、要求貫徹の手段は、長期の展望の中で闘いを更に強化することの必要を認め、次の通り戦術の設定を見た。一 第二波―各支部は五月三日より五月八日まで一斉ストを含む重点部分ストに入る。二 第三波―各支部は五月一二日より五月一七日まで一斉ストを含む重点部分ストに入る。第三波は第二波を更に強化し、組織を挙げて経営機能の寸断を計る。」旨の態度を表明したうえ、前記のストライキを行ったのであるが、五月四日には苫小牧支部において、ストライキ実施三五分前にその旨を被申請人に通告して苫小牧工場原質部砕木課第二砕木係(組合員二〇名)のストライキを実施し、五月五日には苫小牧支部において、まずストライキ実施一三分前にその旨を被申請人に通告して苫小牧工場山林関係の原木運搬作業に従事する組合員二三名につき四時間三〇分のストライキを実施し、次いで同様ストライキ実施一七分前にその旨を通告して同工場原質部抄取調成課抄取係ブローピット作業に従事する組合員三名につき四時間の指名ストライキを実施し、更に五月六日には、苫小牧支部においては、まずストライキ実施三〇分前に被申請人にその旨を通告して苫小牧工場抄造部の第一抄造課第一抄造係、同第二抄造課第三抄造係(組合員約五〇名)につき一時間のストライキを実施し、右ストライキの途中からこれと重複してストライキ実施一〇分前にその旨を被申請人に通告して同第三抄造課第五抄造係(組合員二六名)につき約三〇分のストライキを波状的に行い、更にストライキ実施一〇分前にその旨を被申請人に通告し、右時限ストライキに引きつづき第一、第三、第五の各抄造係につき無期限ストライキを実施し、また同日春日井支部においてもストライキ実施三五分前に被申請人にその旨を通告して春日井工場抄造部抄造課第一抄造係に勤務する組合員につき四時間のストライキを実施するにいたったこと、被申請人が本件争議当時苫小牧工場においては主として新聞用紙、春日井工場においては上質紙、純白ロール紙等を生産していたことは、いずれも前記のとおりであって、その生産工程は右両工場の設備その他の差異により必ずしも同一ではないが、概ね、原木を所定の長さに切断、剥皮したうえ磨砕し又はチップ化する調木及び砕木工程、チップを化学的に処理してパルプ化する蒸解工程、原木の磨砕及びチップの蒸解によって作られたパルプを洗滌、精選し、漂白したうえ所定の濃度に稀釈し、かつ生産すべき紙の種類に応じて各種のパルプを配合し、填料又は染料等を添加する抄取、調成工程、以上のパルプを抄紙機にかけて製紙する抄造工程及び製品の包装、出荷工程に大別され、以上は、調木工程から製品包装工程まで一貫した流れ作業によって行われていたのであるが、以上のような抜打的重点部分ストライキの反覆によって流れ作業の工程が遮断され、その関連職場も広範囲にわたって痳痺状態となり工場の操業は著しく混乱したのみならず危険状態にも陥ったため、被申請人は五月六日工場のほぼ全部につきロックアウトを行ったこと及び右ロックアウト解除後五月七日には、王子労組は、苫小牧支部において再びストライキ実施三時三〇分前に被申請人にその旨を通告して、苫小牧工場の前記第二砕木係において二時間の部分ストライキを実施するにいたったこと、以上の事実が認められる。(なお、苫小牧工場及び春日井工場の組織機構は、後記第三款、第一記載のとおりである。)

6  王子労組が右ストライキ終了後の五月八日に中央労働委員会に対し、賃上要求についての斡旋を申請したが、被申請人が五月一〇日中労委に対し右申請に基づく斡旋には応じられない旨の態度を明らかにするにいたったため、斡旋は開始されなかったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、五月一〇日の中労委の事情聴取に際し、被申請人が中労委に対して明らかにしたところは、王子労組は賃上要求に対する被申請人の回答を不満として実力行使の圧力のみを背景として被申請人に譲歩をせまり、被申請人の右回答の内容について労使間において具体的な話合いが行われていないので労使間自主交渉により解決を図りたい旨であり、中労委も同日王子労組に対し自主交渉による解決を勧告するにいたったことが認められる。

7  その後五月一七日の団体交渉において、被申請人は王子労組に対し、新操業方式の採用につき王子労組の協力あることを前提として、賃金については平均昇給一〇五三円、退職手当についても支給率を一部改訂して増額すべき旨を回答するとともに六月一〇日をもってその有効期間が満了する被申請人と王子労組間の労働協約につき改訂を申入れ、次のとおりの改訂案を提示したこと、

(1)  いわゆるユニオン・ショップ条項を削除する。

(2)  就業時間中の組合活動は従来広範囲に認められ、かつ殆んどについてその賃金が保障されていたものを、勤務地における団体交渉、被申請人主催の労経協議会、委員会に出席する場合には賃金を保障するがそのほかは賃金を支払わないこととする。

(3)  組合事務室その他の便宜供与を一部改訂し実費徴収主義をとる。

(4)  組合費の賃金からの控除は協約と別協定とし、その他組合貸付金の返済金、福祉対策協議会の月賦購入代金等の賃金からの控除は一切行わない。

(5)  争議行為の予告は五日前とされていたものを、四八時間前までに争議行為を行なう場所、日時、内容(種類、対象職場及び参加する組合員の範囲)をその都度具体的に明記した書面で通知することとする。

(6)  医療施設、生活必需物資の配給施設及び入浴施設等の厚生施設は、従来争議中であっても平常どおり組合員に利用させるのが建前とされていたのを争議の実態に即して組合員に利用させることとする。以上の事実は当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人が右のように労働協約改訂提案の時期を五月一七日の団体交渉時としたのは、労働協約九六条二、三項に「前項の期間(注―労働協約の有効期間)満了二週間前迄に、いずれか一方より改訂の申出がなければ、本協約は、更に六ヶ月間有効である。前項の申出があったときは速かに改訂の概要を相手方に提示し、期間満了後の措置につき協議する。」旨の規定があり、右期間満了後の措置につき王子労組と団体交渉するについて、労働協約一六条一項によれば「団体交渉を行なうときは、なるべく一〇日前迄に相手方に文書をもって申入れる。」旨の規定があり、以上の規定による合計二四日間の余裕を見て五月一七日を選択したものであること、右による被申請人の労働協約改訂案の詳細は、次掲のとおりであったこと(被申請人による労働協約改訂案―上段は当時効力を有した労働協約等の規定、下段はこの規定に対応する被申請人の改訂案をそのまま示す。)、以上の事実が認められる。

①  ユニオン・ショップ条項の削除

(組合員の範囲)

第三条 会社の従業員は、左の各号の一に該当する者を除き、組合の組合員でなければならない。

一 課長代理以上の者

二 副調査役及び副参事以上の者

三 秘書及び人事労務関係の機密事務を取扱う者の中、会社、組合協議の上決定した者

四 守衛長又は警防係長

五 引揚復員後所属の決定しない者

六 嘱託及び傭員

七 臨時従業員(特定員、季節員以下同じ)及び日々傭入れる者

八 試用期間中の者

九 その他、会社、組合協議の上決定した者

(組合除名者の解雇)

第五条 会社は、組合を除名された者は解雇する。

(覚書)その者を解雇することによって、会社の業務に支障を来す場合は、組合と協議する。

(組合員の範囲)

第三条 会社の従業員は、左の各号の一に該当する者を除き、組合の組合員でなければならない。

一 課長代理及びこれと同格以上の者

二 副調査役及び副参事以上の者

三 秘書及び人事労務関係の機密事務を取扱う者の中、会社、組合協議の上決定した者

四 守衛長又は警防係長

五 嘱託及び傭員

六 臨時従業員(特定員、季節員以下同じ)及び日々傭入れる者

七 試用期間中の者

八 組合を除名された者

九 その他、会社、組合協議の上決定した者

(組合除名者の解雇)

第五条 削除

②  就業時間中の組合活動に対する便宜供与の改訂

(就業時間中の組合活動)

第八条 会社は、左の各号の場合、予め組合が会社に届出たときは、組合員が就業時間中に組合活動を行うことを認める。

一 団体交渉

二 本協約に基く委員会又は協議会

三 組合規約に定められた本部の大会、中央委員会及び中央執行委員会並びに支部の大会、支部委員会及び支部執行委員会(一回各々二時間以内)。但し、業務に著しく差支えある場合は、この限りでない。

四 その他会社、組合協議の上会社が認めた場合

2 会社は、前項各号の場合の賃金及び旅費については左の通り取扱う。

一 第一号及び第二号の場合には、その時間の賃金を支払う。但し、時間外賃金は支払わない。

二 第三号及び第四号の場合には、賃金規則の欠勤控除の規定により賃金を控除する。

三 第一号第三号及び第四号の場合には、旅費は支払わない。

協定書

第八条(就業時間中の組合活動)の取扱について、左のとおり協定する。

一、団体交渉前に、交渉の期日、交渉の場所、交渉事項、交渉委員の氏名を打合せる旅費及び賃金については、その都度、協議してきめる。

二、組合の本部大会に出席する代議員及び各支部長またはその代理者、及び中央委員会に出席する中央委員及び各支部長またはその代理者並びに支部大会に出席する代議員、及び支部委員会に出席する支部委員の宿泊設備については会社は可能な限り会社施設を使用せしめる。(食糧及び宿泊料については一般出張者と同額とする)

会社施設に収容し得ない場合は会社施設に宿泊したときの金額を超過した分については、会社負担とする。

三、組合の本部大会に出席する代議員及び各支部長またはその代理者、並びに中央委員会に出席する中央委員及び各支部長またはその代理者の取扱は、その往復日数と開催日数間は無給出勤扱とする。出席のため欠勤した者の賃金控除相当額は組合に福利厚生費として寄附する。

四、その組合用務のために勤務地を離れるときは、原則として無給出勤扱とする。

五、発電所及び山林出張所の組合員が、組合の支部大会及び支部委員会に出席するときは、その往復日数と開催日数間は、賃金を控除しない。

議事確認書

中央協約運営委員会の議事に関し、左記の通り確認する。

協約第八条付属協定書第四項の原則の例外として次の場合は有給出勤扱いとする。

一、非専従の組合執行委員が次の組合用務のため勤務地を離れる場合

(1)  組合の本部大会及び中央委員会並びに支部大会及び支部委員会に大会または委員会の構成員以外の資格で参加する場合

(2)  組合の本部、支部打合せ会に出席する場合

(3)  会社内の事業場、事業所間における組合の連絡用務に当る場合

二、組合側委員が参加する会社の委員会が発足後、開催される組合側準備委員会に組合側委員が出席する場合。

なお、組合側準備委員会が会社の委員会発足前に開催される場合で特に会社が認めた場合は、前項に準ずる。

右の取扱は昭和三〇年九月二一日より実施する

昭和三〇年一〇月四日

(就業時間中の組合活動)

第八条 組合活動は就業時間外に行うものとする。但し、左の各号の場合、予め組合が会社に届出たときは、組合員が就業時間中に組合活動を行うことを認める。

一 団体交渉

二 本協約に基く委員会又は協議会

三 組合規約に定められた本部の大会、中央委員会及び中央執行委員会並びに支部の大会、支部委員会及び支部執行委員会(原則として一回各々二時間以内。但し勤務地を離れて参加する場合は、往復所要時間を加えた開催期間中)。但し業務に著しく差支えある場合はこの限りでない。

四 その他会社組合協議の上、会社が認めた場合

2 前項第三号及び第四号の場合の届出は期日、場所、所要時間及び参加者の氏名を明示した別に定める様式により行うものとする。

3 第一項各号の場合には賃金を日割又は時間割で控除する。但し、左の場合には時間外賃金を除き、その時間の賃金を支払う。

一 勤務地において、第一号及び第二号の組合活動を行ったとき

二 第二号中勤務地を離れて労経協議会、工場協議会、表彰委員会、懲戒委員会及び安全衛生委員会に参加したとき

4 第一項第二号の場合には旅費を支払う。但し、協約運営委員会及び厚生委員会はこの限りでない。(現行付属協定書及び中央協約運営委員会議事確認書廃止)

③ 組合事務室貸与その他の便宜供与の改訂

(組合事務室の貸与その他の便宜供与)

第一〇条 組合の事務室、付属備品その他の便宜供与は、左の各号による。

一 組合事務室は、組合の申出により、適当な場所を会社が無料貸与する。

二 備品(電話器を含む)は、組合の申出により、適当な範囲内で一定の料金を定めて会社が貸与する。

三 組合に消粍品を融通した場合は実費を徴収する。

四 電話料、電燈料、通信費等は、実費を徴収する。

五 組合の使用する掲示板は、組合の申出により、適当な場所を会社が貸与する。

六 会社は、組合の依頼により、組合員の毎月の賃金から組合費を控除して組合に渡す。

七 会社は、組合より要求があったときは、機密にわたらない限り資料を提供する。

(組合事務室の貸与その他の便宜供与)

第一〇条 組合の事務室、付属備品その他の便宜供与は、左の各号による。

一 組合事務室は組合の申出により会社が適当と認める場所を無料貸与する。

二 組合事務室備付の施設及び備品は、組合の申出により会社が適当と認める範囲内で一定の料金を定めて貸与し、電話料、電燈料、暖房費等は実費を徴収する。

三 会社は、会社が適当と認める範囲内で組合に消粍品を融通し、その実費を徴収する。

四 会社は、会社が適当と認める場所の掲示板を組合に貸与する。

五 会社は、組合より申出があったときは、会社が適当と認める範囲内で資料を提供する。

④ チェックオフの内容の訂正

(賃金よりの控除)

第七七条 左の各号の金額は、毎月の賃金より控除する。但し、必要と認めた場合は、分割控除することがある。

一 社宅料及び電燈電話料

二 給食費及び寮費

三 病院費

四 会社施設から購入した物品代金及び月賦購入金

五 会社の斡旋した生命保険料及び火災保険料

六 徴収を委任された組合費

七 貯蓄組合の自由預金

八 共済部出資金

九 共済部貸付金の返済金

一〇 その他会社、組合の協議の上決定したもの

第七七条第一〇号協定書(苫小牧支部)

一 賃金の控除の取扱を行うものは次の通りとする。

1 組合生活資金積立金

2 組合臨時賦課金

3 組合共済貸付金の返済金

4 労働金庫貸付金の返済金

5 福祉対策協議会あっせん物資月賦購入代金

(以下福祉対協月賦購入代金という)

但し、組合臨時賦課金についてはその都度会社・組合協議の上決定する。

二 組合共済貸付金の返済金労働金庫貸付金および福対協月賦購入代金の返済金を賃金よりの控除の場合取扱は次の通りとする。

1 労働金庫貸付金の返済金は月額二、〇〇〇円を限度とする。

2 福対協月賦購入代金は二、五〇〇円を限度とする。

但し次の場合は控除の取扱を行わない。

(イ) 休職または長欠の場合

(ロ) 会社の共済部貸付金、組合貸付金(組合共済貸付金または労働金庫貸付金)双方からの貸付を受け、且つ返済を行っている場合

3 賃金よりの控除の順位は、組合貸付金(組合共済貸付金、労働金庫貸付金)の返済金福対協月賦購入代金の順とする。

4 労働金庫貸付金の返済金および福対協月賦購入代金の控除の取扱は昭和三一年七月度の賃金より実施する。

第七七条第一〇号協定書(東京支部)

一 賃金より控除の取扱を行うものは次の通りとする。

1 組合生活資金積立金

2 組合臨時賦課金

3 組合共済貸付金の返済金

但し組合臨時賦課金についてはその都度会社組合協議の上決定する。

二 賃金より控除の取扱は左の通りとする。

1 休職、欠勤開始後四日目以降六ヵ月を経過した場合及び賃金計算期間中途において退職した場合には控除の取扱は行わない。

2 控除の順位は、組合生活資金積立金、組合臨時賦課金、組合共済貸付金の返済金の順とする。

(賃金よりの控除)

第七七条 左の各号の金額は、毎月の賃金より控除する。但し、必要と認めた場合は、分割控除することがある。

一 社宅料及び電燈電話料

二 給食費及び寮費

三 病院費

四 会社施設から購入した物品代金及び月賦購入金

五 会社の斡旋した生命保険料及び火災保険料

六 貯蓄組合の自由預金

七 共済部出資金

八 共済部貸付金の返済金

九 その他会社、組合の協議の上決定したもの

協定書(案)

組合費控除に関し左記の通り協定する。

一 会社は組合の依頼により、組合員の毎月の賃金から組合費を控除して、組合に渡す。

二 前号の組合費とは組合規約第八七条に定められた組合費をいう。

三 前号の組合規約に定められた組合費の内容が変更された場合は、本協定書の有効期間中であっても、その措置につき改めて協議する。

四 本協定書の有効期間は昭和 年 月 日より昭和 年 月 日までとする。

以上

(現行第一〇号に関する付属協定書廃止)

⑤ 争議予告制度の改訂

(争議行為の予告)

第一九条 争議行為を行う場合には、少くとも五日前に相手方に通知しなければならない。

(争議行為の予告)

第一九条 争議行為を行う場合には、四八時間前までに、左の事項をその都度具体的に明記した書面をもって、相手方に通知しなければならない。

一 争議行為を行う場所

二 争議行為を行う日時

三 争議行為の内容(種類、対象職場及び参加する組合員の範囲)

⑥ 争議中の厚生施設利用についての改訂

(争議行為中の厚生施設等の運営)

第二一条 会社は、争議行為中であっても医療、生活必需物資の配給施設及び入浴施設は、争議行為により必然的に生ずる制約を除いては、平常通り組合員に利用させる。

(争議行為中の厚生施設の運営)

第二一条 会社は、争議行為中医療施設、生活必需物資の配給施設及び入浴施設を争議の実態に即して組合員に利用させる。

そして王子労組は、右の団体交渉終了後まもなく本闘委通達第六号を発し「協約改訂の申入れに対し、賃上要求、新操業方式採用等の問題を含め長期闘争を決意するとともに、その長期闘争計画の組織的理解の中から組織防衛の闘いを進める」ことを明らかにし、更に五月二〇日の団体交渉において、あらためて被申請人に対し被申請人の新操業方式採用提案の撤回を要求し、無条件の賃上げを要求して譲らず、被申請人の譲歩がなければ闘う以外にないと言明し、また協約については組合においても改訂案を提示する旨を明らかにしたが、その後五月二七日より三日間苫小牧において中闘委を開催し、協約問題に関する前記態度を変更して当面は現行協約をそのまゝ更新する闘いをすすめ、被申請人がこれに応じない場合は無協約となっても要求貫徹のために闘い、新操業方式採用と賃上要求については右の協約闘争を進める過程において解決を図る旨の闘争方針を決定公表し、次いで六月二日の団体交渉においては、王子労組としての労働協約改訂案を出さず、右労働協約そのものの更新を要求するにいたったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

8 その後被申請人が、六月四日の団体交渉において王子労組に対し、前記協約改訂を提案した趣旨は、王子労組の昭和三二年の年末闘争におけるように、組合が要求を提出しこれに対する被申請人の回答がなされる以前から組合がストライキを行う異常な労使関係は、被申請人としては協約締結時には全く予想していなかったところであり、このような組合のあり方のもとでは被申請人としても従来どおりの協約のままで更新してゆくことはできないし、また組合ないしは組合活動に対する経費援助においても考え直すべきものが多いので、協約の有効期間満了時を控えてこれが改訂の提案をしたものであって、それがたまたま賃上要求のでている時期にぶつかったにすぎず、被申請人は、王子労組の賃上要求及び被申請人提案の新操業方式採用との関連において取引する意味において協約の改訂を提案したものではない旨を説明したのであるが、団体交渉においては、被申請人提案の協約改訂案の内容の審議に入らないまま王子労組は、協約の有効期間満了日の六月一〇日に被申請人提案の協約改訂反対のための闘争(協約闘争)についてストライキ権を確立するにいたったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。なお、≪証拠省略≫を総合すれば、右六月四日における被申請人の態度は同日付の「会社声明」と題する文書によって明らかにされた(右「会社見解」が公表されたことは当事者間に争いがない。)ものであるが、その詳細は「一 就業規則一部改訂及び賃金に関する五月一七日付会社回答は、組合の要請に基き、会社が交渉の行詰り打解のため行った最終努力であり、組合もこの間の事情は充分承知しているはずである。しかも本件についてはその後相当長期にわたって十分の審議をつくしたはずにも拘らず組合が明確な態度を表明しないことは会社としては甚だ不満であり交渉の信義に反するものと考えざるを得ない。二 組合は会社が現行労働協約の自動更新に同意するのであれば、就業規則の一部改訂及び賃金について解決の努力をすると云っているが、会社の協約改訂の意志表示はその申入れの際明らかにした通り、たまたま協約の期限満了期を控えて所定の手続を行ったに過ぎず、就業規則の一部改訂及び賃金とは別個の交渉であり、実際からいっても両者は関係のないことがらである。従って会社としては両者を取引する意図は全くないし、理解できない。三 組合は五月二〇日の団体交渉において協約改訂の意志表示を行い、組合改訂案の提示を予告したにも拘らず、六月二日の交渉ではこれを取消し、現行労働協約の自動更新を申し出た。会社はこのような重大な意志表示について余りにも慎重さを欠く組合の交渉態度に多大の疑念と不信の感を懐かざるを得ない。四 会社が協約を改訂したいと考える真意は昨年末以来の労使関係の実態が、現行労働協約締結の際全く予想し得なかったところであり、このままでは今後の経営について自信をもつことができないという点にある。従って会社の提案している改訂内容も労使関係の正常化に必要な点だけを取上げているのであるから、組合もぜひ右の会社の意図に沿って考えてもらいたい。しかしながら不幸にして組合の同意を得られない場合は、六月一一日以降無協約となることもやむを得ないと考える。もとより会社は無協約が好ましい状態とは考えないので、万一そのような事態が発生した場合は一日も早く労使関係の安定を前提として新たなる観点から協約が結ばれることを希望してやまないものである。」旨であったことが認められる。

9 協約有効期間満了日の六月一〇日の団体交渉においては、被申請人の提案によって労使間に右協約の有効期間を更に一週間延長する旨の合意が成立し、その後六月一一日、六月一二日、六月一三日と団体交渉が重ねられ、被申請人によって協約改訂案の説明が行われ、右の延長にかかる協約の有効期間満了当日である六月一七日の団体交渉において、王子労組は、被申請人の新操業方式採用案には協力するという態度を明らかにしたが、これを就業規則の一部改訂によらず期間を六ヶ月間とする単独協定によるべきこと及び操業手当を被申請人提案の約倍額(九五二円)に引上げることをその条件として主張し、かつ労働協約については基本的には従前の協約更新の主張を譲らず、被申請人は、新操業方式採用を別協定とすることや操業手当につき若干増額の用意あることを明らかにし、労働協約についても被申請人の改訂案を一部修正する等の譲歩を示したが、両者意見の一致をみず、結局右の交渉は決裂し、六月一八日以降被申請人と王子労組間においては無協約状態となるにいたったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二 労働協約失効後新組合結成まで

王子労組は、六月一八日被申請人と対決してその要求をかちとるためには、紙パ組織はもとより総評規模をもって徹底的に闘う旨の闘争方針を明らかにするとともに、被申請人に対し六月二三日午後二時以降争議権行使の自由を留保する旨通告し、ついで紙パ労連、総評に対し闘争支援を要請したうえ六月二五日以降七月一五日にいたるまでの間苫小牧工場及び春日井工場において、一斉ストライキ、部分ストライキを継続的に反覆するにいたったこと、そして、七月一五日にいたり、王子労組は被申請人に対して事務折衝を求め、右折衝において被申請人に対し旧労働協約の線による労働協約締結を中心とする団体交渉の開催を申入れたが、被申請人が右団体交渉を拒否し、かくして王子労組は、七月一八日午前七時から苫小牧、春日井の両支部において無期限一斉ストライキに突入するにいたったこと、その後王子労組は被申請人に対し労働協約締結その他の問題についての団体交渉を申入れ、八月一三日中労委に対し被申請人の団体交渉拒否を理由に不当労働行為に対する救済命令の申立を行なうと同時に右八月一三日、同一五日、同一六日及び同一八日の合計五回にわたって団体交渉の申入れをしたが、被申請人が右申入れにかかる団体交渉の開催を拒否するにいたったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

なお、この間において、王子労組を脱退した被申請人の従業員らによって、八月四日本社新組合、八月八日苫小牧新組合、八月一一日春日井新組合がそれぞれ結成されるにいたったことは、前記のとおりである。

三 本件争議終結まで

1 その後被申請人は、現状打開のため九月三日に王子労組と団体交渉を行い、その交渉において被申請人は王子労組に対し、労働協約については今後協約を締結しうるような労使関係の安定をまって新協約につき交渉することを相互に確認すること、賃金については昇給一人平均一一〇七円・操業手当一人平均五〇〇円とすること、夏季一時金については一人平均五万二五三〇円とすること、退職手当は五月一七日回答のとおりとすること及びこれらは同時解決とすべきことを提案し、同日及び九月四日、六日と交渉を重ねたが右交渉も再び決裂するにいたったこと、この間被申請人が王子労組を相手方として申立てた次の仮処分の決定がなされるにいたったこと、即ち、

(一) 九月六日札幌地方裁判所において苫小牧工場における入出構妨害排除の仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第二四一号)

(二) 八月九日名古屋地方裁判所において春日井工場における食料品、日用必需品搬入妨害排除仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第七二五号)

(三) 九月一二日同庁において同工場の水源地立入禁止妨害排除仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第七七二号)

そして、九月一三日には中労委が職権による斡旋にのり出し、同日、九月一四日、九月一五日の三日間にわたって労使双方から事情を聴取したが九月一六日に現段階においては斡旋をしない旨を明らかにしたこと、そして更に、

(四) 苫小牧工場につき、札幌地方裁判所において

(1) 一〇月六日苫小牧工場山林土場立入禁止仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第二八三号)

(2) 一〇月九日専用側線による入出荷妨害排除、送木水路原木流送妨害排除仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第二八九号)

(五) 春日井工場につき、名古屋地方裁判所において、貨車動力車出入妨害排除仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第九〇五号)が被申請人の申請によって発せられたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、この間九月九日北海道知事が北海道労働委員会(道労委)に対し、本件争議につき職権をもって斡旋されたい旨要請し、道労委も九月一〇日苫小牧市の現地において争議の実情を調査のうえ九月一一日に斡旋を開始する旨決定し、翌一二日から斡旋作業を開始したが、被申請人が道労委に対し、本件争議を自主解決すべき旨等の申入れするにいたり、右斡旋手続はそのまま打切られるにいたったこと及び中労委も本件争議についての職権斡旋開始のための準備作業として、九月一三日王子労組から、九月一四日被申請人から、九月一五日には右労使双方から事情聴取を行ったが、その際被申請人が前同様本件争議をあくまでも自主解決すべき旨の態度を表明するにいたったため、中労委は、翌九月一六日にいたり、現段階においては職権による斡旋を行なわない旨の態度を明らかにするにいたったこと、また、前記各仮処分決定の内容は次のとおりであったこと、即ち、王子労組に対し

(一) 九月六日札幌地方裁判所昭和三三年(ヨ)第二四一号事件においては「一、王子労組は被申請人の指定する従業員及びその他の者が別紙図面一記載の朱線(別紙(五)「苫小牧工場及び社宅平面図」中に表示した朱線とほぼ一致する。)をもって囲む区域内に出入することを実力をもって妨害してはならない。二、被申請人の委任する執行吏は前項の命令に違反する諸行為を排除することができる。」旨

(二) 八月九日名古屋地方裁判所昭和三三年(ヨ)第七二五号事件においては「一、王子労組の組合員は春日井市王子町一番地被申請人春日井工場内への食料品及び日用必需品の搬入を妨害してはならない。二、王子労組の組合員において前項の搬入を妨害したときは被申請人は名古屋地方裁判所執行吏に委任して右搬入に差支えない程度の通行を確保するため、適当な手段を講じさせることができる。」旨(この仮処分決定がなされたことは当事者間に争いがない。)

(三) 九月一二日同庁昭和三三年(ヨ)第七七二号事件においては「王子労組は被申請人の命ずる従業員が別紙目録記載の施設(春日井工場水源地ポンプ室)へ立入り並びに右施設内の機械を運転することを妨害してはならない。被申請人の委任する執行吏は、前項に違反する妨害行為を除去するため適当な措置を講ずることができる。」旨

(四) 一〇月六日札幌地方裁判所昭和三三年(ヨ)第二八三号事件においては「王子労組苫小牧支部はその所属組合員又は第三者をして別紙物件目録記載の工場又は山林土場(別紙(五)「苫小牧工場及び社宅平面図」中朱線をもって囲む部分とほぼ一致する。)に立入らせてはならない。」旨

(五) 一〇月九日同庁昭和三三年(ヨ)第二八九号事件においては「王子労組苫小牧支部は、その所属組合員若しくは第三者をして、実力をもって被申請人又は被申請人の指定する者のなす次の行為を妨害させてはならない。(イ)別紙物件目録記載の工場(苫小牧工場)東北門をとおる貨物列車による製品の出荷又は原材料を入荷する行為、(ロ)右工場北方の山林土場から工場構内に通ずる送木水路を利用して原木を工場構内に流送する行為、但し右の禁止は言論による説得並びに団結による示威に及ぶものではない。」旨、なお被申請人から王子労組に右仮処分決定に違反する行為ありとして札幌地方裁判所に対し右仮処分決定に基づき、(イ)右送木水路に投入された石等の障害物の除却、(ロ)王子労組苫小牧支部がその所属組合員その他の者をして苫小牧工場東北門をとおる貨物列車の運行を線路上及び線路敷地内にピケットを張り若しくは器材を用い妨害する行為の排除とこれらの妨害行為排除のための授権決定を求める申立(同庁昭和三三年(モ)第九五〇号)をしたが、右申立は、一〇月一八日同庁において、(イ)についてはすでにその必要性がなく、(ロ)については、直接人体に強制力を加えることを内容とする授権決定の申立は不適法であるのみならず、王子労組がその所属組合員らを前記線路のレールからそれぞれ外側にむかい約一八〇センチメートルの地線まで下げ、右地線以遠においてピケッティングすることは前記仮処分に違反しないし、右組合員らが一〇月一六日以降貨物列車の進行中に右地線内に立入り又は器材等を用いて貨物列車の進行を妨害したことを認める資料がないとして却下され、

(六) 一〇月二六日名古屋地方裁判所昭和三三年(ヨ)第九〇五号事件においては「王子労組は、被申請人又はその委任を受けた者が別紙目録記載の物件(被申請人の専用側線)上において貨車又は動力車を運行させること並びに右車両を日本国有鉄道春日井駅構内及び春日井工場内へ出入させることを実力をもって妨害してはならない。被申請人の委任する名古屋地方裁判所執行吏は前項に違反する妨害行為を除去するため適当な措置をとることができる。」旨であったこと、以上の事実が認められる。

2 その後一一月八日にいたり中労委が本件争議につき職権斡旋を開始し、右斡旋は、いったん労使双方の意見の対立によって中断されたが、一一月二一日にいたり中労委が労使双方に対して本件争議収束のための斡旋案を提示し、被申請人は、一一月二二日に、王子労組は同月二九日に、いずれも右の斡旋案を受諾し、王子労組は一二月九日午前七時をもって争議手段を解除するにいたったこと、一一月二一日に名古屋地方裁判所において被申請人の主張するとおりの仮処分決定がなされたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、右仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第八五七号)の内容は「一、王子労組は、被申請人の指定する従業員及び被申請人の委託を受けた者が春日井工場内に出入すること及びこれらの者が同工場内に一切の物品を搬入し、同工場内から一切の物品を搬出することを実力をもって妨害してはならない。但し、これらの者が被申請人の専用側線により出入及び搬出入する場合をのぞく。二、被申請人の委任する名古屋地方裁判所執行吏は、右の趣旨を公示するため及び右命令に違反する妨害行為を除去するため、適当な方法をとることができる。」旨であったことが認められる。また右の中労委の斡旋案が提示されるまでの経過及びその後の本件争議の経過についてみるに、≪証拠省略≫を総合すれば、右のように一一月八日に職権斡旋を開始した中労委は、以後一一月一三日までの間前後四回にわたって労使双方から事情を聴取したうえ、一三日夜労使双方に対して斡旋の基本構想として、本件争議においては、労働協約におけるユニオン・ショップ協定の存廃が抜きがたく、しかも最も根源的な争点ではあるが、すでに被申請人の企業内には王子労組のほかに新組合が存在しているという現実をも勘考し、ユニオン・ショップ協定の存廃は一応棚上げして本件争議の解決を考えるべきであること、そのためには、昭和三四年三月末までを労使間の平和回復期間とし、その間労使は争議行為をしないで右ユニオン・ショップ以外の労使間の争点である賃上要求、夏季一時金及び新操業方式の採否等の諸懸案事項を解決することによって事態収拾を図ること及び右平和回復期間内においては王子労組及び新組合員は現状を維持すること等を示したが、王子労組は、ユニオン・ショップ条項を含む労働協約の即時締結ないしは将来における締結の確約を主張して譲らず、この点においてすでに被申請人の主張と拮抗して斡旋手続もそのままで膠着状態に陥ったため、中労委は数日間の冷却期間をおくとして右手続を中断するにいたったこと、そして前記のとおり一一月二一日に労使に対して斡旋案を提示するにいたったのであるが、右斡旋案の具体的な内容は、次のとおりであったこと、即ち、

「 斡旋案

今次の争議について職権斡旋の形をとらざるを得なかったのは遺憾であるが、これは各般の事情からやむを得ない結果であったので、労使双方共この間の事情を諒解して左記によって紛争の解決を図られたい。

(一) 今回の争議の焦点は、ユニオン・ショップ制であるが、現在の王子の労使関係には本来この制度の基本条件たる相互の信頼感が欠けているので直ちにこの制度を全面的に容認することはできない。将来この点が改善せられ、組合の組織が安定した時には、従来のようなユニオン・ショップを結ぶことが望ましい。

(二) 当面一つの重要な問題は現在組合が二つに分裂しているという事情であるが、これは事実として認めざるを得ないので労使双方ともこの事実の上に立って紛争の収束を図るよう努力されたい。

(三) このような状態の下で事態を収束する為には差当り明年三月三一日を期限として平和回復への努力の期間を持つ事が必要かつ妥当であると考える。この期間について旧協約第五条によって会社は組合を除名された者は解雇するものとする。

但し、同条覚書はそのまま適用する。

(四) その他の協約条項については、争いのあった条項を除いてなるべく従来の慣行によることとし、必要なものについてはこれを協定化すること。右協定の期間は第三項の期間とする。

(五) 右期間中に会社は異動及び役付の任免はこれを行わない。

(六) 昇給、賞与、福利厚生その他従業員の労働条件、待遇については、本組合の組合員たると否とによって差別的取扱いをしない。

(七) 今次争議に関連して、労使双方とも現に行っている告訴、告発訴訟及び不当労働行為の申立は全部これを取下げる。

なお、正当なる争議行為の責任はこれを追及しない。

(八) 斡旋案が双方に受諾された時は直ちに就労の協議に入ること。

(九) もともと本争議の中心は経済問題ではないが長期の争議を終結して生産を再開するには全従業員の協力を必要とするので会社は従業員に対し金一封(一人一律五〇〇〇円)を支給すること。

(十) 本争議の終結について紛争が生じ、当事者間で解決がつかないときは、中労委の斡旋によって解決をはかるよう努力すること。

以上」

右斡旋案の提示は、中労委において被申請人側の熊沢副社長、斎藤専務取締役、浅田勤労部副部長、河毛勤労部勤労課長、王子労組の池の谷紙パ労連中央執行委員長、申請人吉住及び同皆川の同席する場においてなされたこと(なお、斡旋案第七項の文言が右のとおりであったことは当事者間に争いがない。)、被申請人が右斡旋案を翌一一月二二日に受諾したことは前記のとおりであるが、王子労組は、右斡旋案の受諾に先立ち、一一月二六日中労委に対し文書をもって「右斡旋案を原則的に了解し、その線に沿って平和的に就労できるよう努力したいと思う。但し斡旋案に疑義のある点、不安な点もあるので、それらの点が解明され、労使双方の意見が合うまでは斡旋案第八項の協議には入れず、そのため若干の時日を要すると考えるので申添える。」旨通知するとともに、右斡旋案中殊に第五項及び第七項について疑義があるとして中労委にその解明を申出たところ、前記中山斡旋員は、一一月二七日被申請人側の前記四名及び王子労組の申請人ら三名ほかを同席させたうえ、文書により「斡旋案の疑義解釈」として、「(一) 第五項は本組合員と会社との関係を決めたものであるが、その趣旨はこの期間中、労使関係の安定をはかろうとするものであるから、会社は本組合員以外のものについてもこの趣旨で適切に措置されたい。なお、この期間中に停年退職、病気欠勤その他巳むを得ない事情で補充のため異動任免を必要とする場合には会社は組合の了解の上これを実施することを妨げない。

(二) 会社は第七項の『正当なる争議行為云々』の条項を裏返して拡張解釈しないよう善処されたい。」旨(右の疑義解釈(二)の文言が右記載のとおりであったことは当事者間に争いがない。)を明らかにしたこと、その後王子労組は、一一月二八日、同二九日の両日にわたって被申請人に対し、前記斡旋案の内容に沿い、労働協約その他前記の諸懸案事項及び個々の就労条件につき団体交渉の申入れをしたが、被申請人は王子労組において中労委の斡旋案を受諾する以前に同労組と右斡旋案の内容について団体交渉をする余地はないとして右申入れを拒否したこと、そして、王子労組は、前記のとおり一一月二九日に中労委の右斡旋案を受諾したのであるが、翌一一月三〇日には、苫小牧支部「斗争ニュース」第五九〇号をもって、前記の労働協約、その他諸懸案事項及び個々の就労条件につき「全面解決がなされるまで、断固としてスト体制を維持し、更に圧力をかけなければならない。」旨の態度を明らかにして従前から王子労組が示した斡旋案受諾後の闘争方針を再確認するとともに右斡旋案受諾後においても従来の闘争体型をそのまま維持したこと、そこで被申請人は、一二月三日の事務折衝において王子労組に対し、右争議状態の解除を求めるべく、被申請人はロック・アウトを解除し、すでに被申請人がした王子労組の組合員に対する責任追求のための告訴、告発を取下げることがあることを示して王子労組の意向を打診したが、王子労組は争議状態の解除に同意せず、むしろ、そのままの状態において団体交渉により協議をすることが先決であるとして、同日被申請人に対し、「(一) 争いのあった協約事項中、就業時間中の組合活動、便宜供与等の暫定的処理方法 (二) 入構の具体的方法(三) 連操(新操業方式)並びに経済問題等の懸案事項の処理方法 (四) その他細部的、余後処理事項」を議題とする団体交渉の開催を申入れたが、被申請人は、同日事務折衝において、前記のように依然として争議状態が継続している状況下では平和的な交渉は不可能であるとして、右申入れを拒否し、また王子労組は、一二月四日中労委に対して、被申請人が、次の組合要望事項につき王子労組の団体交渉の申入れに応ずるよう仲介されたい旨の申出をしたこと、

組合要望事項

(一) 協約

(1) 斡旋案第三項(除名解雇)については協定を結ぶ。

(2) 争いのなかった条項は従来の慣行によることを覚書とする。

(3) 争いのあった事項の中、就業時間中の組合活動、便宜供与は暫定的に従来通りの協定を結ぶ。

(4) 明年一月より協約についての交渉を行う。

(二) 懸案事項

(1) 賃金、退職金、夏季一時金は会社の最終回答を了解する。

成績査定は差別待遇せぬ様特に留意して行う、精算払いはスト解決後可及的速かに行う。

(2) 連続操業は今後協議する。

(三) 入構の具体的な条件

(1) スト解除と同時にロックアウト、立禁を解除する。

(2) 分割就労は絶対拒否する。

この王子労組の申出を受けた中労委は、一二月五日被申請人の代表者を招き、中山斡旋員による文書をもって「(一) 一二月九日を期して組合はストを解き、会社はロックアウト、立入禁止を解除する。(二) 右に先立ち一二月六、七、八の三日間平和状態回復の具体的条件(別紙組合要望事項―注・前記「組合要望事項」)について協議をもつ。(三) 右の協議に当って労使双方の見解が一致しない条項については中労委の仲裁による。この仲裁には双方異議を唱えないこと。」旨の申入れをし、被申請人もこれを了承するにいたったこと、そして、王子労組は、一二月六日被申請人に対し、前記「組合要望事項」と同一事項を議題とする団体交渉の開催を申入れ、これに応じた被申請人との間において同日午後二時四〇分から一二月八日にかけて団体交渉が行なわれたが、右の団体交渉においては、主として前記「組合要望事項」(三)の(2)の就労方法について議論が集中し、王子労組は「分割就労は絶対に拒否する。組合は一二月九日から一斉就労するという強い決意である。」と主張したのに対し、被申請人が就労方法に対する見解として「今次争議の経過にかんがみ明年三月末日を目標に平和回復への努力期間として新旧両組合の感情緩和に重点をおくとともに現在の市況及び生産諸条件を考慮の上左記のごとく分割就労せしめる。

(一) 就労は昭和三四年三月三一日までの期間に四回に分けて行なう。

(二) 第一回の就労は組合員の約三割とし、就労協定成立後一〇日目に行なう。

第二回目以降の就労の人員及び期日についてはその後の実情を考慮して決定する。

(三) スト解除後、就労に至る期間は所定就業時間就業したときの賃金を支払う。」旨を明らかにしたところ、右分割就労は被申請人が前記のように王子労組脱退者が生じて以来企図してきた王子労組破壊策であるとの観点に立つ王子労組は、新組合員と王子労組員との感情緩和は全員一斉就労が最善の策であるとして右の被申請人の案に反撥し、右三日間の団体交渉においては、右就労問題と併行して前記「組合要望事項」中の他の事項についても協議が重ねられたが、被申請人が、九月三日王子労組の要求に対して回答した夏季一時金につき被申請人の回答どおり五万二五三〇円で妥結した以外に何らの進展もなく経過し、この間一二月七日午後一〇時一五分王子労組苫小牧支部は「職場確保闘争指令」として「中労委斡旋案受諾後、すでに一二日、この間組合側の団交申入れに対する会社側の態度は労使の早期平和回復を希望する組合側の誠意を全くふみにじるものであったことは今更いうまでもない。加えて一二月五日中山会長申入れに基く一二月六、七日にわたる会社側の団交態度は分割就労の押し付等全く言語道断といわざるを得ない。一二月七日午後八時第二八回支部闘争委員会は会社側の不誠意を徹底的に追及し、要求貫徹、完全勝利確保のため、闘争体制を堅持し、中山会長申入書の中で更に闘争を強化するため、次の決定を行なった。全組合員及び家族はこの決定遂行のため直ちに行動を開始するよう左のとおり指令する。

(一) 苫小牧支部は一九五八年一二月九日午前七時を期し一四四日に及ぶ無期限ストライキを解除し一斉職場確保闘争に突入する。

(二) 一二月八日午後一時、全組合員家族総決起大会を開催し、引つづき職場確保闘争の準備行動に突入する。

(三) 全組合員は一二月九日以降、いかなる行動にもたえうる体制を確立しておく。

(四) その他具体的事項はその都度支部闘争本部において指示する。」旨の支部指令を発するとともに翌八日午後一時から苫小牧工場正門前に約三〇〇〇名の組合員及びその家族が参集して前記の総決起大会を行い、一二月九日午前七時を期して一斉に職場に突入し、工場構内にある新組合員を工場構外に排除して各職場を王子労組の組合員らのみによって確保しようとするいわゆる「職場確保闘争」を強行すべき姿勢を顕示するにいたり、事態は一層険悪化し、極めて不穏な様相を呈するにいたったこと、被申請人と王子労組の三日間にわたる団体交渉は前記のとおり具体的な進展を見ずに一二月八日午後四時三〇分頃終了するにいたったため、問題の解決は、前記一二月五日の中労委中山斡旋員の申入書(三)に従い中労委の仲裁裁定に委ねられるにいたったのであるが、中山斡旋員は、一二月八日夜被申請人及王び子労組から各別に事情を聴取し、その際被申請人が中山斡旋員の「王子労組が、職場秩序維持のためには一斉就労がまさり、一斉就労が認められれば職場秩序維持については王子労組において責任を持つとしているので、この言を信じ一斉就労に近い方式を認めてはどうか。」との勧告に従い、従来主張した分割就労案を譲歩するにいたったため、中山斡旋員は、一二月九日午前二時に一二月八日付をもって労使双方に対し、

「 仲裁裁定

(一) 一二月九日スト及びロックアウト立禁を解除すると同時に同日を含めて六日間臨時休業とする。この休業期間については所定就業時間就労したものとして賃金を支払う。

(二) 右休業期間中に会社・組合とも闘争のための施設一切を撤去する。

(三) 右期間終了後一〇日間を操業準備とする。

(四) 右期間中も平常操業の可能な現場は平常通りの勤務方式で各直毎に就労する。

(五) 直ちに平常操業に入れない現場は整備修理並びに点検の作業を行なう。

右の作業が完了し系統別に就業可能となったものについては、準備期間中といえども逐次操業に入ること。

(六) 前項整備等に必要な要員は職制の指示によってきめる。その現場に所属するその他の従業員は全員常日勤とする。但し交替勤務の場合は出勤者数が同時に一直をこえないようにすること。

(七) 以上の各項についての細部は必要があれば適宜別途協議する。

(八) 以上の各項が円滑に実施されるよう労使双方責任をもって善処すること。

(九) 一二月五日の斡旋員申入れ別紙組合要望事項に記されたその他の条項については、スト及びロックアウト解除後、本社、本部間においてさらに交渉すること。

以上」

旨の仲裁裁定を示し、その結果王子労組は、前記のとおり一二月九日午前七時をもって争議体制を解除し、その後につづくいわゆる職場闘争は別として、本件争議は一応の終熄を見るにいたったこと、以上の事実が認められる。

第三款 被申請人主張の違法行為について

被申請人の主張にかかる違法行為(別紙(一)「争議行為の経過」中〔一〕ないし〔三四七〕の事実)中、まず主要と思われる事実から順次判断をする。なお、右事実の分類については、別紙(一)に摘記された事実の具体的な内容にかかわらず、もっぱら被申請人による1ないし6の分類に従うこととする。

≪中略≫

第三行為の違法性

一 被申請人施設に対する不法侵入について

申請人らは、前記認定の被申請人施設に対する不法侵入(前記第二、一において認定した諸事実のほか、第二、六、(二)及び(四)ないし(八)において認定した諸事実を含む。以下同じ。)につき、王子労組の組合員らは争議中であっても被申請人の従業員たることに変りがないのであって、右の被申請人の施設への立入りは、いずれも被申請人に対する団体交渉の申入れか、本件争議解決についての要請又は被申請人の不当労働行為に対する抗議を目的とするものであって、その目的においても正当であったばかりでなく、その態様においても被申請人の業務を妨害する等のこともなく正当であった旨主張するのであるが、一般に当該の使用者に雇用される従業員であり、しかも組合活動を目的とする限り、その従業員による使用者の企業用施設内への立入りが、いついかなる場合においても正当化されるなどということはないのみならず、王子労組の組合員らによる被申請人施設への侵入の態様について見るに、前記の各認定の事実によれば、まず苫小牧工場においては、その組合員ら多数をもって、被申請人の明示の立入禁止又は被申請人の警備員の制止を無視し、或は門扉を乗越えるなどして工場構内又は千歳第一発電所の施設内に侵入し、組合員以外の被申請人の従業員に対して暴行脅迫を加え、被申請人の管理職を取囲んでつるしあげるなどしてその業務を妨害し、更には石塊を投げつけるなどして工場構内にいた多数の新組合員らを負傷させ、給食所その他の施設又は工場構内にあった器物を損壊し、右給食所にいた被申請人の非組合員たる従業員が外にでられないようにして監禁し、送木水路にリヤカー等を投入して右水路による流木業務を妨害し、また土足のまま王子クラブに乱入して、被申請人の管理職に対して面会を強要し、更に右管理職が王子クラブ外にでられないようにして監禁し、また春日井工場においても苫小牧工場におけると同様の方法をもって工場構内に侵入し、殊に侵入に際しては、門扉を乗越え又は門扉の施錠を破壊し、或は工場の有刺鉄線柵又は塀の一部を損壊し、侵入後構内において工場長に面会を強要し、ガラス窓その他の器物を損壊する等の挙にでたことが認められるのであって、前記のとおり認定した工場構内等への侵入の諸事実は、その目的、動機のいかんを問うまでもなく、その手段、態様に照らし、すでに正当と評価しうるものではない。

二 就業妨害について

前記認定の諸事実(前記第二、二において認定した諸事実のほか、同第二、三、1、(十四)において認定した事実を含む。以下同じ。)によれば、まず王子労組の組合員らは、非組合員である被申請人の管理職に対し、脅迫的言辞を浴せ又はいわゆる洗濯デモその他による暴行を加え、右の暴行を加えるべき態度を顕示し、更に集団をもって種々の嫌がらせを行って、その入出構を阻止妨害するにいたったことが認められるのであって、かかる妨害行為が違法な組合活動として許されないものであることはいうまでもない。また、申請人らは、王子労組の組合員らの新組合員らに対する入出構の阻止妨害について、被申請人が王子労組脱退者に指示して新組合を結成させるとともに、殊に苫小牧工場において右新組合員らをして「就労デモ」を行わせ強行就労させることによって王子労組を破壊することを企画し実行したため、これらの新組合員らに対面して説得し団結の示威をもって新組合員に反省を促したにすぎないと主張するのでこの点について見るに、本件争議の過程において王子労組の組合員らが大量に脱退して新組合を結成するにいたった経過は、後記第四款、第二、三において認定するとおりであって、それが申請人らの主張するとおり被申請人の指示等に基くものとは認めがたいし、また「就労デモ」云々の点について見ても、八月一九日以降苫小牧工場において新組合に所属する被申請人の従業員らが就労行動を兼ねていわゆる「就労デモ」を行ったことは前記認定のとおりであり(≪証拠省略≫中には、右新組合員らの行動は就労行動そのものであってデモではないとする部分があるが、前記認定の諸事実並びに≪証拠省略≫に照して措信できない。)、甲第六五号証、甲第一〇八号証の二、田原本人尋問(第一回)の結果と弁論の全趣旨を総合すれば、九月二〇日頃王子労組の組合員が春日井工場構内、私物を取りに入った際発見入手した九月六日付王子製紙春日井工場労働組合生産再開準備委員会発行名義の「スト終結後の諸問題及び対策―日鋼、日産自動車の場合」と題する小冊子に附載された「当面の行動要領参考」なる文中には、新労と旧労との「勢力の優劣の決定的動機となるものは生産再開である。」、「スト中の生産再開について」「仮処分促進の方法として就労デモは必要であるとする(日鋼)、両者の因果関係はなしとする(日産)。」、「スト長期化の場合の志気維持法」として「1、原則的には力に対しては力で行く。2、具体的には、就労デモを行うこと、組合員の常時招集(苫の例)」等の記載があることが認められる。そして、右小冊子がすでに見たように春日井工場構内において入手されたもので、右小冊子の発行名義が後記のように被申請人にとっていわば協調的な新組合内の委員会であること及び被申請人が本件争議終結後、王子労組の組合員らの入構方法について、いわゆる分割就労を提案し、それが王子労組との間における物議の種となったことは前記第二款、第三、三において認定したとおりであるが、右甲第六五号証によれば、右小冊子中の「スト終結後の会社としての対策」と題する部分には「スト終結時の就労対策」として「旧労については分割就労(初期、日鋼では七~八分割案、中労委では二分割案)結局三回に分けてその間隔は約二週間位」の記載があり、これらを総合して考えると、右小冊子が発行された九月六日当時、被申請人が就労デモの必要性について共通する考え方を持っていたのではないかと疑えば疑える節もないではないのであるが、甲第六五号証を通読すれば、右小冊子は、前記のとおりその発行名義が春日井新組合の生産再開準備委員会であるのみならず、その内容においても、過去に存在した日本鋼管株式会社及び日産自動車株式会社の労働争議終結後において、第一組合及び第二組合に対してとった労務対策に関する情報を新組合として蒐集したうえ分析したものにすぎないことが認められるのであって、右甲第六五号証があるからといって、苫小牧工場における新組合員らの前記就労デモを被申請人が企画指示したものとは直ちに推認することができないし、他に右就労デモが被申請人の指示によって敢行されたものと認め得る疎明資料はない。そして、王子労組の組合員らによる新組合員に対する入出構阻止行為の態様は、前記認定の事実によれば、まず苫小牧工場においては、幅員約二三メートルの工場正門前通り一杯に、多きにいたっては約三〇〇〇名にも及ぶ組合員らを蝟集させ、竹竿等を横たえ又はスクラムを組んでその進行を阻止し、更に新組合員らの隊列に集団をもって割込んで新組合員らに暴行を加え、また正門、通用門及び東北門の各門扉に鉄鎖や麻縄をまきつけて施錠し、正門前に自動車を駐車させ、そのうえ監視者まで置いて右門扉の開放を不能ならしめたばかりでなく、九月六日札幌地方裁判所において前記の工場構内出入妨害禁止の仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第二四一号)がなされた後においても右決定を無視して前同様の阻止行為を継続し、春日井工場においても苫小牧工場におけると同様の妨害行為を反覆し、殊に病者の出構までも集団をもって阻止妨害し、一一月二一日名古屋地方裁判所において前記の同工場への出入妨害禁止の仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第八五七号)がなされた後においても右決定を無視して同種の妨害行為を繰かえしているのであって、右妨害行為の態様にかんがみれば、それが王子労組のストライキ突入後に同労組を脱退し新組合を結成した者の就労阻止ないし王子労組の団結の維持が主目的であったにせよ、集団をもって実力を行使し暴行を加えるなど著るしくその度を越すものであるのみならず、仮処分決定まで無視して強行されたものであって、それが違法として許されないものであることはいうまでもない。

三 原木流送妨害及び入出荷妨害について

本件争議に際し、王子労組の組合員らが苫小牧工場において、送木水路による北工場から工場への原木流送を、苫小牧及び春日井の両工場において、被申請人の専用側線又は自動車による製品、資材の搬出入(苫小牧工場における食糧搬入妨害をのぞく。)を実力をもって妨害したことは、前記第二、三において認定したとおりであるが、右認定の各事実によれば、送木水路においては、水門に取付られた鎖、錠その他の施設を破壊し、閉塞鉄板を除去して右水路の水位を低下させ、更には多数をもって右水路内に土砂その他を投入し又は原木をくくり付けるなどして障害物を設置して右水路による原木の流送を不能ならしめ、右王子労組の組合員らが設置した障害物を除去し同水路を復旧しようとした非組合員たる被申請人の管理職その他の作業員に暴行、脅迫を加えて同作業を妨害するなどして被申請人の同水路による原木流送の業務を妨害し、また前記専用側線、自動車等による被申請人の製品、資材の搬出入については、工場の門を鎖等で閉鎖し又は門前に溝を構築して自動車の出入を不能ならしめ、更には言論による説得又は団結による示威に藉口して前記被申請人の専用側線の線路上に坐込み又は貨車等の進路に立塞がり、旗等を掲げて進路前方における機関手の視野をさえぎり、バリケードを進路に設置し、貨車が被申請人の工場構内に進入すること自体を不能ならしめるなどして右製品、資材の搬出入を不能又困難にして被申請人の業務を妨害したものであって、すでにその手段において正当な組合活動の範囲を著しく逸脱しているのみならず、苫小牧工場における王子労組の組合員らによる被申請人の製品、資材の搬出入並びに送木水路による原木流送の妨害行為に対しては、前記のように一〇月九日札幌地方裁判所において右各妨害行為を禁止する旨の仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第二八九号)がなされた後においても継続されているのであって、右仮処分決定後になされた前記の各妨害行為は、右仮処分決定に違反する点においても違法たるを免れない。なお、申請人らは、被申請人が一〇月一三日苫小牧工場水路門において、また一〇月二〇日午前六時頃には同工場北門附近において、暴力団員を使用して、ピケを張り又は説得活動を行っていた王子労組の組合員らを襲撃させた旨主張するのでこの点について見るに、甲第一〇八号証の二、甲第二一二号証ないし甲第二一四号証中には、申請人らが主張するように暴力団が介入した旨の記載があり、≪証拠省略≫によれば、その後の新聞において被申請人が送木水路における流送作業員又は警備員として暴力団員を雇入れたごとき報道がなされた事実が認められる。然しながら右甲第二一二号証ないし甲第二一四号証によれば、申請人らによって暴力団員といわれているものは、被申請人の下請作業者である菱中興業の臨時雇用の人夫であったことがうかがわれるが、被申請人が右菱中興業等に厳命して暴力団を狩集め、王子労組の組合員らのピケの中に殴込ませたとする甲第一〇八号証の二の記載は、その裏付を欠きそのまま採用することができないし、他に右申請人らの主張事実を疎明するに足る資料はない。

四 水源地及び発電所における業務妨害について

王子労組の組合員らが春日井工場の水源地を占拠して操業用水等の送水業務を妨害し、苫小牧工場の発電所施設等を占拠するなどして、その発送電業務を妨害するにいたったことは、前記第二、五において認定したとおりである。申請人らは、右送水並びに発送電の妨害は、単に被申請人の不当な操業再開を阻止するための行為であって正当である旨主張するのであるが、たとえ労働組合がストライキ中であったとしても、そのため操業の全部を停止して事態の推移を坐視していなければならない理はなく、一般に使用者が争議不参加者を使用して操業を継続し又はいったん停止した操業を再開することは、いわゆる操業の自由の範囲に属するものであって、これを当然に不当視することはできないものというべく、ただ本件の場合にあっては、被申請人がその操業を再開するに当り充用した従業員が、前記のように本件争議中に王子労組を脱退したものである点において右一般の場合と直ちに同視することができないにしても、王子労組の組合員らが本件争議中に大量に脱退して新組合を結成するにいたった経過はすでに指摘したとおりであって、右のように王子労組の闘争方針に反対して自発的に脱退した従業員らが前記認定のとおり被申請人に対して積極的に操業再開に協力すべき旨申出た場合、この申出を容れて操業を再開したからといって、これを目して被申請人による違法又は不当なスト破り行為をすることはできない。のみならず前記認定の諸事実によれば、春日井工場水源地において取水される用水並びに千歳発電所において発電される電力は、ただ単に被申請人の操業用のみに使用されていたものではなく、他の一般的需要にも供用されていたことが認められ、≪証拠省略≫中のこの認定に反する部分はそのまま措信できないし、また右各業務妨害の態様について見ても、前記認定の各事実によれば、まず取水妨害については、組合員らの手によって右水源地のポンプ室を封鎖し、非組合員である右ポンプ運転担当の従業員をその社宅に監禁し、右ポンプ室の鍵を騙取し、その鍵穴に小石をつめこみ又は非組合員である被申請人の管理職が右ポンプ室に近づくこと自体を多数の実力をもって阻止し、更には前記のように九月一二日に名古屋地方裁判所において右の妨害行為を禁止する仮処分決定(同庁昭和三三年(ヨ)第七七二号)が発せられ、翌一三日にその正本が王子労組に送達されたにもかかわらず、むしろ右仮処分決定を誹議してこれを無視する態度を明示し、より積極的に前同様の妨害行為を継続し、また千歳発電所においては、単に発電所の施設内に坐込む等によってこれを占拠したにとどまらず、組合員をしてほしいままに配達盤を操作して発電機を停止させ、更に発電所建物の入口を釘を打ちつけるなどの方法によって非組合員たる被申請人の従業員が右建物に立入ることまで不能にして右の発電所における発電業務を妨害するにいたったものであって、右行為の態様に照らしこれらの行為を正当とすることができないことは当然である。なお、申請人らは千歳第一発電所における発電を妨害したことにつき、王子労組がその一時間前に予告したことを理由に、この間に被申請人が工場における生産を調整し、右発電所における発電量を下流の千歳第三、第四発電所に転荷させれば電気的障害はさけられたものと主張するのであるが、千歳第一発電所の機能を停止させれば、千歳川水系における被申請人の全水力発電所の機能が阻害されることは前記認定のとおりであって、被申請人が王子労組の叙上のごとき違法行為に対応して業務妨害の結果を避止すべき作為義務を負担するかどうかを詮議するまでもなくこの主張は採用の限りではない。

五 食糧搬入妨害及びその他の暴力行為について

王子労組の組合員らが苫小牧工場及び春日井工場において、被申請人が王子労組の組合員らによってその入出構を阻止されて工場構内に籠城を余儀なくされた新組合員らのためにする食糧の搬入を阻止妨害するにいたったことは、前記第二、四において認定したとおりであるが、右認定の事実によれば、右の阻止妨害行為は、王子労組の組合員らにおいて、右食糧が工場構内にある右新組合員らの所要の食糧であることを知りながら敢行したものであって、右のようにいわゆる兵糧攻めを図るがごとき行為が、その目的動機のいかんを問わず許すべからざるものであることはいうまでもないところであるし、殊に春日井工場においては、八月九日に食糧搬入妨害禁止の仮処分決定(名古屋地方裁判所昭和三三年(ヨ)第七二五号)の正本が王子労組に送達され、また苫小牧工場においては王子労組の幹部において工場構内の食糧が缺乏状態にあることを確認しながら、なおかつ同種の妨害行為を繰りかえしているのであって、以上の行為を正当な組合活動を評価できないことはもちろんであるし、前記第二の六において認定した「その他の暴力行為」についても、以上において述べたと同様の理由によって、到底これを正当と評価し得るものではない。

第四就業規則とその適用

1 被申請人の就業規則に、その従業員に対する懲戒解雇事由として被申請人主張のとおりの定めがあることは当事者間に争いがない。申請人らは第二において認定した行為につき、右はいずれも集団的労働関係としての争議行為の一環をなすものであって、いわゆる個別的労働関係を規律対象とする就業規則は適用の余地がない旨主張するのでこの点について見るに、この主張が右第二において認定した行為がすべて正当な争議行為であることを前提とするものであることは、その主張自体によって明らかであるところ、右第二において認定した行為が正当な争議行為と評価し得ないことは、右第三において述べたとおりであって、この主張はすでにその前提を欠くものであって採用の限りではない。

2 そして叙上の王子労組の組合員らの違法行為について見るに、王子労組の組合員らが、被申請人の明示の立入禁止を無視して被申請人の施設内に侵入した行為は右就業規則三〇条三号に、非組合員たる被申請人の管理職又は新組合員らに暴行脅迫を加えた行為は同条二号に、被申請人の企業の施設又は器物を損壊した行為は同条八号に、非組合員たる被申請人の管理職又は新組合員らの就業のための入出構を妨害し、前記送木水路における原木流送、被申請人の製品、資材の搬出入、春日井工場水源地及び千歳発電所における取送水及び発送電の各妨害及び食糧搬入妨害行為は全体として右就業規則三〇条二、三号に該当するものというべきである。なお、前記第二、二、2の(十四)及び同六の(三)において認定した暴行は、被申請人の事業所又は就労途上等であって事業場におけると同視すべき場所においてなされたものではなく、従って、前記被申請人の就業規則のいずれの条項にも該当しないものというべきであるが、右暴行の被害者はいずれも新組合員であり、暴行の主たる動機は右新組合員らが王子労組の闘争方針に反し被申請人が再開した操業に協力的であったことにあったことは明らかであり、右暴行の態様、程度を考えれば、本件懲戒解雇の当否を考量するうえにおいては無視することのできない情状というべきである。

3 ≪証拠省略≫を総合すれば、本件争議当時王子労組は、その大会に次ぐ決議機関である中央委員会が闘争の開始を決定したときには、中央執行委員長、中央副執行委員長及び書記長その他の本部役員に組合員の直接無記名投票によって選出された補充本闘委委員若干名を加えた本闘委を設置し、本闘委は「組合の機関で決定した闘争業務を遂行するため、企画、立案するとともに一般投票の指令、行動の自由留保通告、実力行使の開始及び停止、その他緊急事項を処理するため指令及び通達、通告を発する」権限を有し、本闘委委員長は闘争業務を統括し必要な指令を発し、同副委員長は同委員長を補佐し不在のときその職務を代行し、同書記長は書記局を統轄するものと定められていたことが認められ、本件争議当時において、申請人吉住が本闘委委員長、申請人皆川が同副委員長、申請人田原が同書記長の地位にあったことは当事者間に争いがない。そして王子労組の組合員らが極めて長期間にわたって同種の違法行為を反覆累行していること及び右違法行為中には王子労組の指令又は王子労組の指導によって敢行され、組合幹部が率先して指揮に当った行為も含まれていることは前記第三において認定したとおりであって、右の事蹟に徴すれば、それが右違法行為を担当した組合員らの独自の判断に基づくものとも又は単なる偶発的な出来事とも到底解されないのみならず、申請人らが王子労組の組合員らの叙上の違法行為を阻止し又は将来における同種違法行為の発生を防止すべく努力したことを認める疎明資料もなく、かえって右違法行為中には、申請人らがその現場にあって直接その指揮をとり又は指導して実行せしめたものすら含まれることは前記のとおりである。以上の事実を総合して考えれば、右のように申請人らが直接指揮し指導した違法行為につき申請人らがその行為の共同者として前記就業規則所定の責に任ずべきはもちろんであるが、王子労組の組合員らが敢行したその他の違法行為についても、他に見るべき反証のない本件にあっては、王子労組の本闘委の委員である申請人らがその役職上の地位と権限によって自ら企画立案し、その下部組織を通じて王子労組の組合員を指揮して実行せしめたものと推認するのが相当であり、従って、申請人らは、前記個々の違法行為を現実に担当して実行した組合員らと並んで前記就業規則所定の責任を負担しなければならないものというべきである。

4 以上のとおりであって、叙上の違法行為が反覆された期間、その量及び質にかんがみれば、申請人ら主張の再抗弁が認められない限り、被申請人が主張する他の違法行為の存否について判断するまでもなく懲戒解雇は免れないものというべきであるから、被申請人の主張するその余の違法行為の存否についての判断を省略し、以下において申請人らが主張する再抗弁の理由の有無について判断することとする。

第四款 申請人らの再抗弁に対する判断

第一不当労働行為の主張について

本件懲戒解雇の事由とされた王子労組の組合員らの行為のうちに多数の違法行為が含まれ、かつ右違法行為につき申請人らがいわゆる幹部責任等の責任を負担すべきものであることは前款において説示したとおりであるから、右各行為の正当性を前提とする申請人らのこの主張は、すでに爾余の点についての判断を用いるまでもなく失当たるを免れない。

第二解雇権の濫用の主張について

一 中労委斡旋案について「疑義解釈」

中労委が一一月二一日本件の労使双方に提示した斡旋案の第七項に申請人らの主張するとおりの文言があり、かつ中労委の中山斡旋員が王子労組の求めによって一一月二七日右労使双方に示した右斡旋案に対する「疑義解釈」に「会社は第七項の『正当なる争議行為』言々の条項を裏返して拡張解釈しないよう善処されたい」旨の文言があったこと及び右の疑義解釈がなされた後に王子労組が右斡旋案を受諾するにいたったことは、いずれも前記のとおりである。申請人は、右の経過によって被申請人が申請人に対する本件争議に関する責任を追求する意図をすべて放棄した趣旨を主張するので、まずこの点について判断する。

≪証拠省略≫を総合すれば、右中労委の斡旋案が本件労使双方に提示された時点において、争議の形勢は王子労組にとって必ずしも不利とはいえなかった等のこともあり、右斡旋案第七項に対しては組合の内部においても、本件争議に関し組合員から一人でも処分を受ける者を出す結果になるならば、ストライキは続行すべきであって斡旋案は受諾すべきではないという強硬な意見があり、王子労組は、一一月二五日本闘委を開催して右意見その他につき検討した結果、右第七項の解釈その他二点について中山斡旋員の見解を質すこととし、翌一一月二六日申請人田原、皆川の両名において中労委事務局に中山斡旋員を訪ね、右の三点についての見解を求めたが、その際中山斡旋員は右斡旋案第七項に対する疑義の解明は労使同席の場ですべきものであるとしながらも感想として「第七項については、組合は不当労働行為救済の申立を取下げる。会社は組合の正当な行為の責任を追及しないと同時に、会社が不当と考えている組合の行為に対する意思を放棄したものと解すべきだ。私が取扱った問題で争議終結後責任追及の問題が起った例は一つもない。」旨を明らかにしたことが認められ、中労委の中山斡旋員が翌一一月二七日に被申請人の熊沢副社長ら四名及び申請人ら三名を同席させたうえ文書によって前記「疑義解釈」を明らかにしたことは前記のとおりであるが、≪証拠省略≫を総合すれば、その際中山斡旋員は、前記の労使双方の面前で右の疑義解釈を記載した文書を読聞かせ、更に口頭説明をもって、前記疑義解釈中「裏返して拡張解釈しないよう善処されたい」旨の文言は「拡張解釈しない」ことに重点があり「裏返し」を否定するものではない旨補足したことが認められる。これに対し、前記田原本人は、その席上において中山斡旋員は、右文書を読上げたうえ、この文字どおりに素直に解釈してもらいたい旨発言した以外に何の話もなく、王子労組としては、前記一一月二六日における中山斡旋員の発言により、右斡旋案第七項に対する疑義解釈は、被申請人に対し右第七項の文言の拡張解釈を禁止するのみならず、右文言中「正当なる争議行為」の語を裏返して「不当な争議行為の責任を追及することは許される。」旨解釈することも禁止したものと了解したため、前記の斡旋案を受諾することに決定した旨供述しているので、この点について見るに、右のように、そのいずれとも取れる「疑義解釈」の文言の解釈について、王子労組が一一月二六日における中山斡旋員の発言によって右田原本人の供述するところと同旨に解釈するにいたったとしても、右の中山発言は被申請人側の同席しない場所で王子労組に対してなされたものであるから、それが直ちに右「疑義解釈」の文言の解釈について被申請人を拘束するとはいえないのみならず、≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人は、本件争議の過程において一貫して王子労組の違法又は不当な争議行為の責任を追及すべき旨の態度を維持してきたことが認められ、この事実を参酌して考えれば、右「疑義解釈」の文言は二様に解釈し得る余地があり、解釈の仕方いかんによっては被申請人の右の態度は変更を余儀なくされるにもかかわらず、被申請人の幹部がその場に出席しながら、唯々諾々として、右文言の解釈につき一言の問を発することなく引さがるということ自体が不自然であり、また当時中労委の会長であった中山斡旋員が、わが国の労働争議史上屈指の大争議である本件争議(この点は、公知の事実である。)を解決するためとはいえ、一一月二七日における本件労使の同席するいわば公的な場において、被申請人の質問に耳を傾けず又は王子労組の違法行為の責任追及を阻止するかのごとき態度を示したと考えることは困難であって、これらの諸点を彼比総合して考えると前記のとおり認定するのが相当であり、これに反する前記田原本人尋問(第一回)の結果は到底そのまま採用できるものではない。

二 いわゆる「平和宣言」

昭和三四年七月二一日に被申請人と王子労組の連名による平和宣言がなされたことは当事者間に争いがなく、甲第七号証と弁論の全趣旨を総合すれば、右「平和宣言」の内容は「昨年春以来の労使の紛争は、去る六月一九日、労働協約、賃金等紛争解決に関する六項目に亘る基本的諒解が成立し、自主的平和的解決をみるに至りました。此の間、昨年末、中山中労委会長の御あっせんを煩わし、その後、田中前北海道知事の御仲介による自主解決の為の平和会談をもつなど、平和回復に対してあらゆる努力を傾注した結果、漸く此の段階に到達したのであります。その後、夏季賞与をめぐって労使の見解が対立しましたが、幸い労使双方平和自主解決の基本態度を堅持し、話し合いの努力の中から見解の一致を見るに至り、本日、六項目の覚書と共に一括調印を致しました。今日の平和回復に当り、これまで各方面より賜わった御尽力に、深い謝意を表すると共に、今後、労使共、過去を反省し相互信頼感を深め、労使関係の安定と社会的使命の達成を期し、再出発することを誓い、茲に、平和宣言を発する次第であります。」というものであったことが認められる。

申請人らは、右「平和宣言」をもって恰も被申請人が申請人らに対し免責をしたかのごとく主張するので、右「平和宣言」がなされるにいたった経緯並びにその意味について見るに、本件労使双方が中労委の斡旋案を受諾して以後一二月八日に中労委の仲裁裁定がなされるまでの経過は、第二款、第三、三の2において認定したとおりであるが、≪証拠省略≫を総合すれば、右のようにして本件争議が終結した後、被申請人と王子労組間においては、前記第二款、第三、三の2掲記の「組合要望事項」の(一)及び(二)(協約及び懸案事項)等についての交渉が重ねられたが、結局前記中労委の斡旋案第三項所定の昭和三四年三月三一日を期限とする平和回復期間内にその全部についての解釈ができず、その間、王子労組は争議解決によってその組合員らを就労させると同時に、その職場内において職場闘争と称して、被申請人の職制を職場要求又は職場交渉と称して多数をもってつるしあげ、その業務上の指揮命令を無視して操業を停滞させ、また新組合員に対しては種々の嫌がらせを行い、ついには新組合員等に対する暴力事件にまで発展するなどの職場秩序紊乱行為を頻発せしめるにいたったため、被申請人は王子労組の意見をも徴したうえ、同年三月二四日右秩序紊乱行為をしたもののうち、五十嵐泰、田村良及荒田俊夫の三名に対する懲戒解雇及び諭旨解雇者一名を含む合計三五名に対する懲戒処分を行い、また王子労組を脱退した組合員を王子労組が除名したにもかかわらず、被申請人が右除名より脱退が先であるとして従業員を解雇しなかったため、王子労組は右被申請人の措置を前記中労委の斡旋案第三項に違反するものとして非難し、また同年三月における高校卒業予定者の新規採用に当り王子労組の組合員の子弟が一名も含まれていなかったことにつき、王子労組が被申請人に対して、新組合員に対する関係における王子労組の組合員に対する不利益な差別であると攻撃するなどの紛議が発生し(被申請人が、右のとおり五十嵐泰他三名を解雇する懲戒処分を行ったこと、被申請人が右のように王子労組脱退後に同労組を除名された従業員を解雇しなかったこと及び同年三月の新規採用者に王子労組の組合員の子弟が含まれなかったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。ちなみに、≪証拠省略≫によれば、王子労組の規約一三条は、組合員たる資格喪失事由として、退職、規約上組合員資格喪失事由に該当する職務上の地位又は職種に該当するにいたったとき、除名及び死亡を規定するのみであって、組合員の任意脱退を許容する規定をおいていないことが認められるのであるが、右規定の趣旨が、組合員が脱退意思を表明したにかかわらず、除名されない限り組合員資格を喪失しないことを規定したものとすれば、右規定は労働者の消極的団結の自由を侵害し公序に反して無効というべきであって、被申請人が王子労組に対して脱退の意思表示をした後王子労組によって除名された組合員を解雇しなかったからといって、これを前記斡旋案第三項に違反するものということができないし、また右新規採用者につき王子労組の組合員の子弟が含まれなかったことにつき、王子労組の組合員の子弟なるが故に採用されなかったと認めうる疎明資料はない。)、王子労組は、同年三月一八日中労委に対し、労働協約の締結、前記三五名の組合員に対する懲戒処分の撤回及び右除名組合員の解雇を求めて斡旋を申請し、新規採用者に関する問題については、これを不当労働行為として北海道地労委に対し救済申立をするにいたったが、前者については、中労委は同二八日付の中労委会長名の申入書をもって、前記「斡旋案は、三月三一日までに平和的な労使関係が成立することを期待していたが、この期待は事実上裏切られることとなった。次々に発生する紛争に対してこの際、斡旋をもって解決することはほとんど望みがないと思われるので、労使双方とも事態を反省して、自分の手で問題を解決するよう努力せられたい。」旨の前記王子労組申立による斡旋手続を行わない旨の態度を明らかにし、後者については、王子労組は右申立を自ら取下げるにいたったこと、その後同年三月三〇日にいたって王子労組は被申請人に対し、前記協約問題等の未解決事項の解決を主題とする労使の首脳会談の開催を申入れ、この申入れに従う会談が三月三一日から四月六日まで六回にわたって開催されたが、王子労組はその席において協約問題のほか前記職場闘争に関連する職場秩序紊乱行為に対する懲戒処分問題、昭和三四年度における賃金要求等をとりあげたが、結局右会談も物別れに終り、その後同年四月一四日から田中北海道知事の斡旋によって被申請人、王子労組及び新組合の三者会談が行われ、また、これと併行して昭和三四年度の賃金要求及び協約問題等についての団体交渉が行われ、賃金要求については同年五月二三日にいたって一応の妥結を見たこと、その後王子労組は同年六月一一日にいたり、被申請人に対し、前記の職場闘争に関連する職場秩序紊乱行為に対する懲戒処分問題、新規採用者に関する問題、協約その他前記の懸案事項につき被申請人の最終態度を見極めるため同年六月一二日から同月一八日までを限度とする団体交渉を申入れ、同時に右団体交渉において右諸問題が解決しない場合においては同月二〇日以降実力行使に入る旨の態度を明らかにし、この申入れに従って同月一六日以降本件労使双方の間において連日にわたる非公開の会談が行われ、その席においては前記懲戒処分問題及び新規採用問題を除外し、主として職場における平和回復及び秩序の確立について話合が行われ、その席において、被申請人は王子労組に対し、右諸問題解決のための「覚書」案として

「(一) 会社は、職場秩序確立のため、現場職制の職務権限を規定し、その際組合の意見を徴する。現場職制は右の職務権限を責任をもって遂行し、王子労組及びその組合員はこれを尊重する。

(二) 前項の権限に属さない事項で職場の従業員共通の問題については、会社、王子労組が参加する職場苦情処理機関を設けて解決する。

(三) 会社は職場の平和並びに安定の回復維持を目的として次の事項を会社、王子労組並びに王子新労組を以って構成する三者会議に提案する。

(1) 職場の感情緩和の為必要な措置を会社及び両組合の間で早急に検討する。

(2) 組合組織問題に関する四月 日三者会議の内容を確認する。

(四) 会社は、二つの組合が存在する現実に立って、人事権の行使については、特に慎重公平に行う。組合は、会社の人事権を尊重する。

(五) 賃金は五月二三日付会社回答で妥結する。

(六) 労働協約は会社案にそって平和回復後交渉する。

(七) 組合は闘争体型を解除する。」旨の提案をし、

これに対して王子労組は、右「覚書」の組合案として

「(一) 会社は、日常職場に起きる問題を円満に処理し職場秩序を確立するため、管理職制の職務権限を規定する。その際、王子労組の意見を徴する。

(二) 職場に起きる紛議については、会社、王子労組が参加する職場苦情処理機関を設けて解決する。

(三) 会社は、職場の秩序回復、維持を目的として会社、王子労組、王子新労を以って構成する三者会議で次の事項を検討する。

(1) 職場の感情融和に必要な措置

(2) 組合間の組織尊重の具体案

(四) 会社は、二つの組合が存在する現実に立って人事権の行使については従来の慣行に従い、特に慎重公平に行う。

(五) 賃金は五月二三日付会社回答の中、覚書を削除したもので協定し成績査定は従来どおりとする。

(六) 労働協約は平和回復後交渉する。

(七) 紛争の終結にあたっては労使それぞれ共同声明を発表し平和状態に復する。

紛争中の一切の責任追及は行わない。」旨を提案するとともに「会社は両組合に対し中立の立場をとり差別待遇を行わない。この点に関し異議の出た場合会社はその実施を保留し王子労組と協議する。」との議事確認書の交渉を要求するにいたったこと、そして、労使交渉の結果、右組合案のうち(一)及び(七)中「紛争中の一切の責任追及は行わない。」を削除し、(五)を修正することで交渉が妥結し、

「 覚書

(一) 職場におきる紛議については、会社、組合が参加する職場苦情処理機関を設けて解決する。

(二) 会社は職場の秩序回復維持を目的として、会社、王子労組、王子新労組を以って構成する三者会議で次の事項を検討する。

(1) 職場の感情融和に必要な措置

(2) 組合間の組織尊重の具体案

(三) 会社は二つの組合が存在する現実に立って、人事権の行使については従来の慣行に従い特に慎重公平に行なう。

(四) 賃金は交渉経過の上に立って妥結する。

(五) 労働協約は平和回復後交渉する。

(六) 紛争の終結に当っては、労使それぞれ共同声明を発表し、平和状態に復する。」が採択され、かつ議事確認書として「会社は両組合に対し中立の立場をとり、差別待遇を行わない。この点に関し異議の出た場合は苦情処理機関で処理し、その運営については充分考慮する。」旨の文書及び更に前記の懲戒処分問題と新規採用者の問題については、

(一) 懲戒処分の問題については、組合の希望について、年内に解決するよう誠意をもって努力する。

(二) 新規採用については組合の希望を考慮し引続き話し合う。旨のメモが作成され、同年七月三一日に本件労使双方によって前記覚書に調印がなされると同時に、右覚書第六項に基づいて「平和宣言」が発せられるにいたったこと、以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫そして右認定の事実によれば、前記「平和宣言」の基礎をなす「覚書」は、本件争議終結後に派生した王子労組の職場闘争に基因する被申請人の事業場間における混乱を収束し、職場の平和の回復と秩序の回復を目途としたものであって、右「覚書」が採択され本件労使双方によって調印されるにいたった過程においても、右労使双方のいずれからも申請人らの本件争議にまつわる責任問題につき言及された事蹟はないし、かえって、被申請人は、右「覚書」成立までの交渉過程において、職場の平和と秩序の回復を強く希求しながらも、職場闘争に関連する職場秩序紊乱行為に対する責任追及の態度は依然として留保している事実が認められるのであって、右「平和宣言」が申請人らに対する免責をも含む趣旨と解することはできないし、他の本件の全証拠を検討して見ても、右「平和宣言」が申請人ら主張の趣旨を含むものと認むべき疎明資料はない。なお、申請人らは、本件懲戒解雇が右「平和宣言」後更に一年余を経過してなされたことをもって不当とするが、すでに第二款、第三において認定したとおり、本件争議は王子労組の無期限ストライキ突入以後その終結にいたるまで一四五日間にわたる大争議であり、然もその間王子労組の組合員らによって敢行された違法行為は、当裁判所が第三款において認定した事実のみを取あげても極めて多数にのぼり、そのうえ上来認定したように本件争議終結後においても職場闘争が継続された事実にかんがみれば、被申請人が本件処分を決定するに右の期間を要したとして、決して不自然ではないし、本件懲戒解雇が右の時期にいたって発令されたからといって、これを不当とすることはできない。

三 その他

被申請人が、王子労組の昭和三三年度春闘における賃上要求に対する回答に際して新操業方式の採用を提案し、また本件争議の過程において王子労組に対し労働協約を提案したこと及びこれらの被申請人の提案が本件争議を拡大させる要因となったこと並びに本件争議の過程において王子労組を脱退する組合員が続出し、それらのものによって新組合が結成されるにいたったことは、いずれも前記のとおりである。申請人らは、これらはいずれも被申請人が王子労組を破壊するために企画し実行したものであるのみならず、申請人らに対する本件の懲戒解雇も右の王子労組破壊工作の一環としてなされたものである旨主張し、≪証拠省略≫によれば、当時新聞、雑誌の一部によって、本件争議は被申請人が「王子労組に仕かけた争議」である旨報道されたことが認められるので、以下これらの諸点につき順次判断を加える。

1 新操業方式採用並びに労働協約改訂の提案

まず、新操業方式の点について見るに、前記第二款、第三、一、1ないし3において認定した事実によれば、右操業方式の採用により番方交替時に一部従業員の非就業時間が七時間になる事態が生ずるにしても、それは概ね六週間に一度にすぎず、新操業方式の場合、従来の操業方式に比較して従業員の全体として労働負荷はかえって減少することになるし、また当時新操業方式に類する操業方式は被申請人の同業各社においてほぼ全般的に採用され、新操業方式自体が被申請人の従業員相互間における賃金較差の是正と操業効率の向上に資する合理的な方法であったと認められるのであって、申請人らがいうように新操業方式の採用が直ちに被申請人の従業員に対する労働強化につながるものとはいえないし、また労働協約改訂の提案について見ても、右労働協約改訂案の内容は前記第二款、第三、一、7において認定したとおりであって、右の被申請人提案どおりに労働協約が改訂されたとすれば、王子労組の右協約による既得的利益が害されるにいたることは否めないところであるが、前記第二款、第三、一、8記載の被申請人が王子労組に対し団体交渉の席上説明した右提案の趣旨並びに≪証拠省略≫を総合すれば、被申請人が右のように労働協約の改訂を提案するにいたったのは、昭和三二年の年末闘争における王子労組の闘争手段、本件争議に際し、従来からの一二時間前の争議行為予告の慣行を無視して王子労組が五月四日から七日にかけて、いわば抜打的な重点部分ストライキを実施して全工場の操業を麻痺状態に陥れ、保安上の危険をも生ぜしめるなどの行為が、右改訂提案の対象となった労働協約の条項を存続させる前提としての労使の信頼関係を破壊するものであり、他の便宜供与条項の改訂については、すでに経済的基盤の固った王子労組に従来同様の援助を与える必要もなく、また厚生施設の利用の改訂については、争議時の厚生施設の運営管理の実態に即した利用をはかることにあったことが認められる。そして前記第二款、第二及び同第三、一、4・5において認定した各事実、殊に昭和三二年の春闘においては、すでに昭和二五年に任意退職したものの復職を求めてストライキを決行し、同年の年末闘争においては王子労組の要求に対する被申請人の回答をまたずにストライキを繰りかえすなどの本件の労使間においては、かつて見られなかった異常な闘争を展開し、また本件争議の過程においても右のようないわば抜打的なストライキを繰りかえして保安上の危険をも生ぜしめている事実を総合して考えると、被申請人が本件労使間の信頼関係の破壊を云々し、労働協約をそのまま維持できなかったと判断するにいたったとしても、強ちこれを非難することはできないし、また、便宜供与は労働組合に対してはむしろ与えられないのが原則であり、厚生施設についても労働組合のストライキ突入により平和時同様に運営することに支障の生ずる場合もあり得ることを考えれば、争議中その運営管理の実体に即して、その利用がある程度制限されることもやむを得ないところというべきであって、王子労組にとって前記のように被申請人提案どおり労働協約が改訂されたことによって不利益が生ずるとしても、その不利益は王子労組の存続に直接影響を及ぼす種類のものとはいいがたいし、被申請人によって争議中に右のような提案がなされたからといって、それが直ちに被申請人の王子労組破壊の意図に基くものとすることはできない。

2 新組合の結成と被申請人の態度

(一) まず、王子労組の組合員らの大量脱退と前記各新組合結成の経過について見るに、≪証拠省略≫を総合すれば、本件争議に先立ち二月二〇日に開催された王子労組の第三一回臨時大会においては、執行部によって昭和三二年の年末闘争のすゝめ方につき異例の自己批判が行われ、その席において少数の組合員からではあるが「強い意見だと拍手で迎えられる。係長が現地の意向を本部に伝えようとすると支部執行部はそれは統制違反だという。」とするなど右の年末闘争における本闘委や支部執行部の態度は「大東亜戦争の大本営みたいだった」とする厳しい批判があったが、本件争議に入った後においても、本闘委が、三月一四日開催の紙パ労連の昭和三三年春闘における統一闘争の第一回戦術委員会に臨むに当り、王子労組の態度として、「賃金要求に対する使用者側の回答につき、その回答期限を三月二〇日と指定し、賃金要求に対するストライキ権を三月二五日までに確立することを紙パ労連加盟の各単組が行うことにより右回答を促進する。」ことを提案することについて各支部支闘委の意見を求めたところ、三月一三日開催の東京支闘委においては「(1) 被申請人に対し右のように期限付回答を要求しても、被申請人がこれに応じなければ、ストライキ権確立、実力行使の問題もあり、結局昭和三二年の年末闘争の二の舞を演ずることになるのではないか。状勢の変化もありストライキ権確立の時期をのばすべきである。(2) 王子労組が右のように提案すれば、結局王子労組が前面に出る危険があるのではないか。(3) 被申請人が三月二二日までに回答期限を連絡するとしている以上、組合としては一歩ゆづり今月末に期限付回答を要求すべきだ。(4) 被申請人のペースに乗ることが何故悪いか、組合のペースで進めれば有利な回答が出るとは、前記年末闘争の経験から考えられない。」等々本闘委の前記方針案に対する批判意見が続出し、右支闘委における採決の結果、右本闘委案は否決され、被申請人の出方を見たうえで組合の方針を決すべき旨の意見が採択されるにいたったこと、

その後三月三〇日に賃上要求についてのストライキ権が確立されたことは前記のとおりであるが、右ストライキ権確立に関する一般投票の結果は、当時組合員総数四四三二名中投票総数三九九一票、そのうちの有効投票三八八九票中賛成二五八一票反対一三〇八票であって、右組合員総数に対するストライキ権行使賛成組合員数の比率は、五八%余であり、また同時に行われたストライキ指令権を紙パ労連に委譲することの可否に関する一般投票においては有効投票三八一二票中賛成二一一九票反対一六九三票であって、その賛成票数は組合員総数の過半数(二二一七票)に達せず、右案件は否決されるにいたったこと、一方前記のとおり賃上要求と新操業方式の採用につき、王子労組は被申請人との交渉を経て四月一八日に第一波の闘争として四月二三日から四月二八日にいたるストライキを決定し、このストライキ日程については、苫小牧支闘委は、四月一九日絶対多数をもって支持を決定し、更に四月二二日には後記東京支闘委の態度をも参酌したうえ賛成四五対反対一五で右本闘委日程の諒承を再確認し、また春日井支闘委は、四月一九日賛成一八、反対一、中立五で右日程を承認するにいたったが、東京支闘委は、四月二一日賛成一、反対一六、白紙一をもって右本闘委日程に対する反対を決定するにいたったものの、四月二四日の東京支闘委においては、苫小牧及び春日井の両支部の本闘委に対する結論が右のとおりである以上、本闘委の方針に不満であってもこれに従うべき旨を諒承するにいたったこと、その後王子労組が五月四日以後ストライキを行ったこと及び五月一七日被申請人が王子労組に対し賃上要求に対する最終回答を行うと同時に労働協約改訂の提案をするにいたったことは、いずれも前記のとおりであるが、王子労組は、その直後各支部支闘委に対し、五月二七日開催の第二九回中闘委に提案すべき「被申請人の新操業方式採用についての提案を撤回させ、賃上要求を貫徹するまで六月一日以降無期限の一済ストライキを含む部分ストライキで闘う。」旨の本闘委の闘争方針案及び労働協約について、(1)第五条については、そのままとし、同条の覚書を削除する。(2)第八条については、現行以上に更に組合活動を広汎に行えるようにする。(3)第七七条については、現行のほか更に組合の機関が決定したものについても被申請人が控除するものとする。(3)第一三条二項「団体交渉において、会社役員及び従業員以外の者を交える場合は協議する。」旨の規定を削除する。(4)第一九条は現行どおりとし、更に「会社は、争議中組合員以外の者を組合員の代りに使用しない。」旨の規定を附加する。その他私傷病の休職期間の現行六ヶ月を一二ヶ月とする。就業規則の改正については組合と協議する等の本闘委の改訂案についての審議を求めたが、五月二三日開催された東京支闘委は、五月二一日及び二二日の両日にわたり東京支部執行部全員が本闘委の応援を得て集約した東京支部所属組合員の意見が、(1) 被申請人と王子労組の交渉については「交渉経過を分析しても、組合としては会社に新操業方式について協議する態度をとらず、従って正式に反対の理由を示し、会社が更にこれに代る案を示すという形がとられてないまま丸二ヶ月が経過したことは理解できない。」、(2) 昭和三二年の年末闘争に対する前記の自己批判に関連して「五月一七日の会社の最終回答に対し、下部組合員の意見を確かめないで会社に最後通告をしたことはおかしい。」、(3) 情勢分析に関して「会社はストライキを受けて立つといっている。それに正面からぶつかって行くことは、年末闘争の例もあり組合としては最悪の条件で会社に全面的に負ける結果になる。」、(4) 東京支部の今後の方針について「操業方式については、組合のいう方式によるか会社の方式によるかの差異はあっても、結論としては合理化はされるということでなければならない。しかも現状では新操業方式に代る名案がないのであるから、今後は、新操業方式を前提として、その中でより良い条件を獲得できるよう交渉すべきだ。」というにあることを確認すると同時に、前記の本闘委の闘争方針案については、不賛成の意見も多かったが、その採否に関する投票については、東京支部に所属する中闘委の委員の判断に一任することとし、それよりも、東京支部としては、中闘委は、本闘委の闘争方針案の審議に先立ち五月一七日の被申請人の提案を審議決定すべき旨の動議を提出すべき旨を出席者全員の賛成をもって決定し、労働協約についての本闘委の改訂案を実力行使してまでもかちとるべきかについては、反対六、中立八、賛成なしで否認するにいたったこと、また、当時苫小牧支闘委は、前記本闘委の闘争方針案を賛成三五対反対二八で諒承したが、各部門の右闘争方針案に対する意見としては、原動、原質、抄造の各部門が右本闘委案絶対支持であったに対して、現務部門においては本闘委案支持が七五%、山林部門においては、闘争に自信が持てない、新操業方式についての交渉を軌道に乗せて欲しい旨の意見が、事務部門においては、右本闘委案には反対であって、被申請人の五月一七日付の回答で可、また被申請人の新操業方式採用の提案の撤回を求めるためには、賃上要求についてはゼロ回答もやむを得ないとする意見があり、設計工作部門については意見の統一ができず、本闘委案支持と山林部門に近い意見の両々であったこと、なお労働協約の改訂に関する本闘委案は満場一致で支持されたこと、更に五月二四日に開催された春日井支闘委は、五月一七日付の賃上要求に対する被申請人の回答並びに労働協約改訂の提案には反対しながらも、新操業方式採用及び労働協約の改訂に対する反対並びに賃上要求の三本立闘争の困難さを理由に、協約闘争を前提とし、新操業方式の採用については被申請人に協力すべきものとして、前記の本闘委の闘争方針案に反対することを決議し、右に対する代案として「新操業方式については、操業手当につき更に交渉し、その採用の方法は、就業規則の改訂によらず別協定とし、期限付で実施する。賃上要求については前記被申請人の回答を諒解する。」旨決議するにいたったこと、その後、六月一九日以降労働協約が失効するにいたった経過は、前記のとおりであるが、その後被申請人は、六月二三日から六月二五日にかけその全従業員に対し「無協約について」と題する左記内容の文書(勤労ニュース)を配付するにいたったこと(被申請人が右文書をその従業員に配付したことは当事者間に争いがない。)、東京支部においては、右のように労働協約が失効した六月一九日から六月二三日にかけて全職場において今後の闘争方針について討議したが、そこに表われた意見の大勢は従来同様の闘争を継続することについては否定的かつ消極的であったため、同支部執行部は、右各意見を分析し「労使関係を正常な交渉のルートにのせるために、先ず会社の提案の趣旨を考えて、これについて交渉する行き方をとって、労使が基本的に一致できる点について確認したうえで、その安心感の上に新たな観点から当面する諸問題を考えていく。」ことに集約したうえ、これを東京支部の見解として六月二四日開催の本闘委に提案したのであるが、右本闘委の委員中には「労使間では信頼関係などあり得ない。今は闘う方向に結集すべき時機であり、そういう見解は、組織の六四%が闘おうといっている現在、本闘委として検討の余地はない。」「そういう見解を支闘委にかけることは統制違反である。」との意見もあったため、東京支部の執行部は、同日の支闘委においては、右執行部の見解を報告するにとどめたこと、しかしながら翌六月二五日開催の東京支闘委は、動議として提案された前記執行部の見解を賛成一三反対四をもって採択し、次いで右見解を臨時支部大会を開催して、そこにおいて確認すべきであるとする動議を賛成一四、反対三をもって可決し、更に「本闘委々員不信任の提案を次に開かれる本部機関に提案する。」旨の修正動議を賛成九、反対七をもって可決し、臨時支部大会の期日の選定を一任された東京支部執行部は、その期日を七月一日と決定するにいたったこと、その後本闘委は東京支部に対し一支部が本闘委の闘争方針に反する議題をその大会において審議することは組織のルールに違反するとして右臨時支部大会の中止方を要請する一方、前記の東京支部執行部の見解は、前のように被申請人が従業員に配付した「無協約について」と題する勤労ニュースとその内容において軌を一にするものであるとし、また被申請人とハラを合せた一部分子の策動であるとして批判し、六月三〇日の支闘委においては、申請人吉住をはじめとする本闘委々員出席のもとに、前記の本闘委による支部大会中止要請の採否につき挙手採決した結果、本闘委の右要請を拒否して支部大会を開催することが賛成一四、反対三によって可決され、その席において東京支部の今後について討議した結果「あらゆる方法を講じても、われわれの考え方が本部及び苫小牧並びに春日井の両支部に受入れてもらえないときには、最悪の事態ではあるが、脱退ということも決意せざるを得ない。」との意見につき、その採否の無記名投票を行った結果、賛成一四、反対二、中立一をもって右意見が可決され、更に右意見を臨時支部大会の追加議題とすることも賛成一三、反対三、中立一をもって可決されるにいたったこと、そして七月一日の臨時支部大会において、一号議題として前記執行部見解が、二号議題として右の追加議題が提案されるにいたったが、前者については、出席代議員四二名中賛成三八、反対三、白紙〇、後者については、賛成二三、反対一一、白紙七をもって提案どおり可決されるにいたったこと、これに対して本闘委は、七月二日文書をもって、東京支部の本闘委出席並びに中闘委開催の拒否、東京支部によるオルグ派遣の禁止、東京支部執行部の指導責任を統制問題として提訴する旨を明らかにし、更に翌七月三日には本闘委指令第二四号をもって東京支部が本闘委委員長の許可なくして一切の文書を印刷配付することを禁止するにいたったため、執行部は七月四日の支闘委に王子労組脱退を提案し、右支闘委は、無記名投票の結果、賛成一三、反対三、白紙二をもって提案どおり可決すると同時に、直ちに右脱退に賛成する組合員による脱退届への署名を開始し、右脱退届は七月一二日に王子労組本部に到達するにいたったこと(なお、その間七月一一日には右脱退者らは本社従業員団を結成したうえ、直ちに被申請人と団体交渉を行い、被申請人は右従業員団に対し七月一六日夏季一時金として金五万〇一二八円を支給すべき旨回答し、更に七月一八日には右一時金を五万二五三〇円とする最終回答を行い、七月二二日には右一時金に関する交渉を妥結させて間もなくこれを支給するにいたったことは当事者間に争いがない。)

一方苫小牧支部においては、五月二七日から開催された中闘委に対する本闘委の闘争方針案につき、原動、原質及び抄造の各部門をのぞくその余の部門に属する組合員中、これに対し批判的であるか又はこれに反対するものがあったことは前記のとおりであり、右抄造部門においても労働協約の有効期間満了日である六月一八日に組合員高橋一郎が初めて王子労組を脱退するにいたったが、その後六月三〇日にいたり組合員約四五〇名を擁する事務部門が拡大部門委員会を開催し、本件争議に関する現状打開策を検討した結果、七月一日に部門代議員四三名が出席して部門代議員大会を開催し、その席において本闘委並びに支部執行部の指導方針並びに局面打開のための方策について討議したうえ、賛成三六、反対七をもって次の決議を採択するにいたったこと、

「 決議文

現状における労使間の紛争は我々の譲るものは総て譲った。更に会社は協約問題に関して我々の承認し難い提案を示すに至り、今や双方の見解の相違に基く力対力の段階に突入した。かかる現状の危機に際し我々の執行部は交渉の幅を見出す可能性を失ったように思われる。このような不幸な事態に立ち至ったことは相次ぐ会社提案の苛酷さもあるがこれにもまして現執行部の諸情勢に対する判断の誤りと徒らに理念闘争に走り現実を直視しない指導性の欠如に基くものであると我々は考える。顧りみれば昨年の越年闘争以来、闘争に次ぐ闘争は徒らに組合員の犠牲を強いる執行部の情勢判断の誤謬の上に立つ指導性の欠如のほかに何物もなく我々働く者の経済的基盤の破壊と家庭生活の不安を助長するものであると断定せざるを得ない。かかる拙劣な指導理念と再三、再四の見通しの誤りは、徒らに事態の混乱を招き、今後の山積した労使間の難問題を処理解決する能力と資格が最早や現執行部にないことを我々は甚だ遺憾とするものである。我々は今や現執行部の並々ならぬ今までの解決への努力を多とするも、我々働く者の念願とする我々の生活の安定と向上の期待を現執行部にかけることはできない。今やこのまま推移せんか各職場における不満はより一層拡大し、組合の分裂を招くことにより、徒らに会社の意図に陥ることを恐れる。我々事務部門の働く者の同志は力強い団結と組織防衛のために全員ここに蹶起し、新しき指導理念に基く統一ある行動をとり局面打開と、喜んで働ける環境を作るために、あえて我々は部門の総意に基き左記のことを決議す。

一、支部執行部不信任

一、支部規約第十八条第3項により速かに支部大会を招集せよ 以上

昭和三十三年七月一日

事務部門大会

尚右議題可決決定後本部執行部不信任を上提いたしますから申し添えます。 」

(なお、≪証拠省略≫によれば、王子労組苫小牧支部規約一八条は、支部最高の決議機関である支部大会の招集につき「大会は毎年一回支部長が招集する。但し左の場合支部長が議案を公表して臨時に大会を招集する。1、2(略)、3部門大会の決議により議案を提示して要請があったとき」旨規定していたことが認められる。)、これに対して苫小牧支部執行部は、右事務部門代議員大会が時期的に見て東京支部の前記臨時大会に合致し、しかもその決議内容が東京支部臨時大会において採択された前記執行部見解と軌を一にするものとの判断に立って翌七月二日緊急支闘委を招集し、討議の末右事務部門の決議は現状においては誤りであるとし、本闘委の闘争方針を賛成四〇、反対八、白紙八をもって再確認するにいたったが、それにもかかわらず、事務部門委員長から苫小牧支部長に対し、前記の決議に基づき、ストライキの中止、支部執行部不信任及び臨時支部大会の招集要請がなされるにいたり、ここにおいて苫小牧執行部は、右事務部門代議員大会における決議につき、右決議は一部の分裂主義者の組織分裂策動によるものであり、しかも右代議員の選出及び同大会の構成に疑義があり、右決議は無効であると判断したうえ、事務部門発行のニュースその他の伝単の一切につき、支部執行部の許可したもの以外の配付を禁止する旨の異例の措置をとるとともに、事務部門委員長を統制違反として処置する旨の態度を明らかにするにいたったこと、そして七月三日及び四日には支部長名をもって職場闘争委員長会議及び苫小牧支部の元役員会議を招集して叙上の支部の内部情勢について討議したが、その席においても事務部門代議員大会の要請している支部大会の開催及び現組合執行部では事態の解決を望み得ないとして執行部の交替を求める意見が出され、更に七月一一日には組合員約二六五名を擁する山林部門において部門委員会が開催され、その席上、山林部門として支部執行部に対し支部大会の開催を要求すること、右要求の決定については山林部門所属組合員の直接無記名投票によることが全員一致によって決定され、直ちに投票が開始され、七月一七日までには約八〇%の投票がなされたが、右投票については同部門内から下部組合員に諮らずしてなされたものであって無効であるとの意見が出される等のことがあって、右支部大会開催要求は結局執行部に提出されるにいたらなかったこと、七月一八日から王子労組が無期限ストライキに突入したことは前記のとおりであるが、その前々日の七月一六日には、元王子労組中央執行委員長、前苫小牧支部長戸部卯吉(後に苫小牧新組合副執行委員長)、事務部門所属の石川晴樹(後の苫小牧新組合書記長)らの有志によって「討論しよう」と題し、王子労組のいわゆる協約闘争の得失等を論じたうえ「(執行部は、)年末闘争では会社回答以前にストをしたことから、会社とこじれ長期闘争に入り、中闘委を召集して越年長期闘争を提案したが、中闘委はこれを否決し、十七日間のストは遂にゼロ闘争に終った。この見透を誤ったストの批判の支部大会では執行部不信任は五二対五一で否決されたが、今後長期闘争を組む時は、機関に附議し慎重に闘いを組む事が要請されていた。賃上げと連操とからんだ春闘では当初の散発的ストの後、中闘委に七割七ヶ月の長期闘争を提案したが中闘委は否決し、改めて共通の闘争目標として協約闘争を取上げた。しかしこの重要な中闘委では協約改訂反対のための闘争方針については全然審議を求めず、中闘委も取上げなかった。当然ここで長期闘争の可否が審議決定されねばならなかった。そこで執行部は協約闘争方針に、さきに連操問題で否決された七割七ヶ月の長期闘争を結びつけた。その裏付けとして一般投票を行い二、八〇〇対一、二〇〇でスト権を集約したが、これはその前の連操反対の一般投票三、二〇〇対六〇〇の圧倒的集約と較べると遙かに下廻ったものである。この圧倒的な連操反対闘争に対する七割七ヶ月闘争が中闘委で否決された情勢を無視して、それより低いスト権で現在の長期闘争方針を本闘委独自の判断で決定したことは機関無視であり、闘争第一主義を強行したと云はれても仕方がない。此の様にして闘争は現在に至り、長期化の様相を呈して来たが、この執行部のやり方に対して事務部門は部門決議として不信任を出し大会の開催を要請し、山林部門も早期解決を求めて大会開催要請の一般投票を行うことに決めたし、原質、抄造、原動の三部門は部門代表を本闘委に送り、現場の実感に立って団交を持ち局面を打開しようと動議を出している。しかし執行部は事務部門の大会要請を既に一〇日以上も引延し開催の目度を未だ示さない。又製造三部門の動議は、その必要を認めぬという態度をとっている。執行部批判の声を封じ、事務部門の不信任決議声明文の発行を禁じた。この発行配布は強行されたが統制違反として部門委員長を提訴すると言明している。組合員の権利を無視して(規約違反)、言論統制、批判の封殺を行っている。先日行れたデモ行進は立入禁止の工場内にチン入したがその指導者は全道労協、紙パであり執行部の責任ではないと巧みに責任を逃れているが、我々の組合は我々自身のものであり闘争の主体は我々である。最も職場を愛するものは我々であり一日も早く闘いに勝って、堂々と工場に入りたいと願っている。あの不法な構内立入は残念であり、組合の主体性が我々の手から外部団体へ移った気がする。紙パにスト権は委譲していないし、六社共闘でも、これは側面援助であり、主体は王子労組にあると確認されている点から云っても、現在の様に執行部が外部にオンブしている事は残念である。」として本闘委をはじめとする組合執行部の指導方針を批判したうえ「以上の様に考えてみると今の闘いの意義、闘いの方法、執行部の指導方針等について不明な点が多く長期ストを賭ける程の闘争ではない様でありすっきりしない。こゝで進むか、止るかは個人の考え方である。生活面では赤字になっても、労働階級の勢力拡大の為に、会社に打撃を与えればよいと云う階級闘争主義者は前進し、そんな大それた考えは持たず、たゞ生活の向上と安定の為に損な闘いは止め、得な闘いには頑張り、会社も肥らして、その分け前を少しでも余計に取ろうと考えている者はここでよく考えるべきだ。批判し討論することは、組合員としての一番の権利であり、民主主義の原則である。この重要な時に当って、大いに考え、大いに討論して、すっきりした理解の上に立って、闘争にのぞもう。」とした、無署名のガリ板刷文書約二〇〇部が印刷され、右戸部らと同様の考え方に立つと見られる組合員の自宅に配付され、王子労組が無期限ストライキに入った後の七月二一日には各職場の係長級の組合員が係長、上級職一同名の文書をもって、(一)即時ストライキを中止し平和交渉に入ること、(二)支部大会を速かに開催すること、(三)即時外部団体のオルグを帰すことを支部長あてに申入れるとともに右申入れに同調する組合員九一名の署名簿を提出したが、支部執行部は、組合の下部機関に「係長、上級職一同」は存在しないこと及び右行為が統制違反であるとして右申入書を受理せず、右署名簿はこれを引裂く等の挙に出たこと、その後被申請人が七月二三日付をもって「会社声明」を発し、これをその全従業員に対して配付するにいたったこと(被申請人が右の会社声明を従業員に配付したことは当事者間に争いがない。)、以上の経過を辿ったのち、七月三一日には、前記事務部門に属する組合員が脱退し、八月一日には、王子労組の前中央執行委員長であった鷲津吉雄(後に苫小牧新組合執行委員長)が本闘委委員長であった申請人吉住と会談して、事態収拾のためストライキを即時中止すること及びこの際組合執行部は総辞職することを提言したが、申請人吉住は「七月一七日以前ならできたが、無期限ストライキに入った今日では戦術の転換はできない。組合より交渉を求めることは組織の基本線から外れる。交渉は受けて立たなければならない。三分の一の脱退は当初より覚悟していたことで、自分はまだまだ組合員より絶対の信頼がある。あと半歳も一年も闘いつづけるというのではない。一、二ヶ月このまま戦えば必ず勝つ確信がある。戸部、鷲津の脱退は自分のクビを切ることだ。自分は対決して戦い、闘争終了後は脱退者は全部クビにする。」などとして、結局は右提言に耳を貸さなかったため、八月二日には右鷲津及び戸部卯吉、山林部門並びに運動部に所属する組合員らが、「組合の運営が極めて非民主的である。総評左派につながる実力行使一点張りのやり方では我々の幸福はあり得ない。」(山林部門)、「組合は、無期限ストなる暴挙を独断し、言論の弾圧を加え、集会の自由を奪った。更に又、統制違反、その他幾多の脅迫的言辞を弄し、組合員を盲とし、馬車馬のごとく鞭打つ、かかる態度が、およそ組合員を信頼し、かつ人を人として遇する方法とは思えない。我々は人間であり、社会人である。そして、その理性と良識に照らす時、最も民主的である組合がかかる弾圧と虚偽を用いなければ運営できないことに深い疑惑の念を抱かざるを得ないと共に、激しい義憤を感ずる。」(運動部)等々の脱退声明を公表して王子労組を脱退し、八月三日以降においても右同様王子労組を脱退するものが相次ぎ(当時王子労組を脱退する組合員が相次いだことは当事者間に争いがない。)、前記苫小牧新組合が結成された時点において、その総数は七三八名に達したこと、この間、右脱退者らは、八月二日新組合結成準備会を発足させ、八月三日には後記苫小牧市内の一区会舘にその事務所を設置し、また、被申請人は、八月四日に「現段階における会社の態度」と題する文書(勤労部ニュース)を全従業員に配布するにいたったこと(被申請人が右文書を全従業員に配布したことは当事者間に争いがない。)、以上の経過を辿って前記のとおり苫小牧新組合が結成されるにいたったものであるが、新組合は右結成の日の八月八日及び九日にわたり札幌市内において被申請人と団体交渉を行い、右団体交渉には浅田被申請人本社勤労部副部長が出席し、その席上において新組合員に対する夏季一時金を金五万二五三〇円とすることをもって交渉を妥結させるにいたったこと、また被申請人は春日井工場においても工場長名の書面に添付して前記七月二三日付「会社声明」、その従業員の父兄あてに、更に会社声明を敷衍した七月二八日付右工場ニュース「従業員及家族の皆さん」及び七月二九日付工場ニュース「女子従業員の皆様」をその従業員の自宅に送付するにいたったこと(右のとおり被申請人と苫小牧新組合が団体交渉して夏季一時金についての交渉を妥結させたこと及び被申請人が以上のとおりの文書をその従業員又はその父兄に送付したことは、いずれも当事者間に争いがない。)、ところで春日井支部においては、東京支闘委が本闘委の闘争日程に一六対一をもって反対することを表明した後に開かれた支闘委において、すでに東京支闘委の結論に同調するものがあったこと及び五月二七日開催の中闘委に提案されるべき本闘委の闘争方針案に対する批判が存在したことは前記のとおりであるが、右のように王子労組の闘争方針に批判的であった組合員らは、七月二九日春日井支部有志団を結成し「無期限ストに突入後、既に一〇日余を経過した。現在未だに労資交渉の機会を持ち得ず組合員は不安と昂奮の渦中に勝利の日のみ信じながら日々を送っている現状である。我々は本闘委の闘いの進め方については縷々希望的観測をきいてはいるが、かかる労資関係が徒らに長引くことは、組合にとっても極めて憂うべき状態であると考える。よって組合としては組織の最も固った現在を交渉再開の時期と考え七月三〇日午後六時までに左の通り決断を要請する。(一) ストを中止する。(二) 団交再開を行うことの出来る交渉団を編成する。」旨の要請状を支部長あてに提出するにいたったこと、しかしながら、右有志団の要請は結局支部執行部の容れるところとならなかったため、右有志団に参加した組合員約一二〇名は、八月二日午後七時頃名古屋市内において王子労組脱退のための大会を開き、そのうちの約八〇名は、バス二台に分乗して春日井工場正門前にいたり、右の代表者において王子労組に脱退届を提出して工場に入構するにいたったこと、そして八月一一日前記のとおり春日井新組合を結成し、被申請人は、同日夕刻名古屋市内において本社の田中取締役出席のうえ新組合と団体交渉を行ない、同組合との間において夏季一時金として金五万二五三〇円を支給することによって右一時金に関する交渉を妥結せしめるにいたったこと(以上のうち、八月二日夜王子労組を脱退した組合員が春日井工場に入構したこと、八月一一日に右のとおりの団体交渉が行なわれ、夏季一時金に関する交渉が妥結したことは、いずれも当事者間に争いがない。)、以上の事実が認められ、また≪証拠省略≫によれば、右のとおり被申請人が印刷配布した「無協約について」と題する文書の内容は「(一) 誠に遺憾なことでありますが、六月一八日以降当社の労使関係は無協約という事態に立ち至りました。会社は、昨年末以来の不安定な労使関係の実態から、御承知の通りの労働協約の改訂を組合に提案し、その交渉のため、労働協約の有効期間を一週間延長して組合の協力を要望いたしましたが、組合は最後まで、労使の安定を望む会社の真意を理解しようとしなかったのであります。勿論、協約の改訂交渉においては、各条文一つ一つの交渉も大切ですが、今回の改訂が『現在のように対立と実力行使しかない労使関係が今後も続けられるならば、将来の経営に自信が持てない』という会社の考え方から出たものであることからして、まず、その点を組合が充分認識し反省しなければ、解決し得ないことは自明のことであったにもかかわらず、そのような組合の反省は交渉において全く見られず、遂に、会社も無協約の状態においてその反省を求めざるを得ない立場に立ち至ったのであります。(二) 右の経過で当社としては無協約というかつてない新事態となったのでありますが、会社としてこの際特に従業員の皆さんに知って頂きたいことは、今後とも原則的には従業員個人に対する会社の処遇は従来と変りがないこと、そして従業員と会社の関係は今後は就業規則・賃金規則等会社の諸規定により規律されることであります。この点を少し詳しく説明すると次の通りであります。(1) 今回無協約となったのは労働協約、同附属協定書及びこれに準ずるものであります。(別紙会社通知参照)従って、労働協約とは別個に定められた諸協定書はそのまま有効でありますので、賃金、退職手当、職階制度等主要な労働条件をはじめ私傷病欠勤者に対する見舞金の支給、共済会の餓別金等も従来通り少しも変りありません。(2) 又、協約の中には賃金に関する取決めの一部あるいは就業時間、休日、休暇等の規定がありこれらは協約としては失効しますが、就業規則・賃金規則に同じ規定がありますから今後はこれらの会社の諸規定によって従来通りの取扱がされます。又、今まででも会社の規定で支給あるいは貸与されていた慶弔災害見舞金、諸貸付金等についても勿論変りありません。以上、要するに従業員個々についての会社の処遇は従来通りであるとお考えになって差支えありません。(三) 会社は六月二〇日別紙の通り無協約の場合の組合活動、組合に対する便宜供与並びに専従者の取扱について必要な事項を通知いたしましたが、この通知によって個人的には次の二点の取扱が従来と異ることとなります。(1) チェックオフの廃止 組合費等の賃金からの控除は行われません。従来、皆さんの毎月の賃金から、組合費や組合から徴収を依頼された貸付金の返済金又は月賦代金を控除していましたが、今後は控除いたしません。但し六月分の賃金については従来通り行います。尚、会社としては社宅料、電灯料等の諸料金、配給所の物品代、貯蓄組合の自由預金、生命保険料等については今まで通り賃金から控除する協定を結ぶことを組合へ申入れ中であります。(2) 就業時間中の組合活動の正常化 就業時間中従業員が組合活動に参加する場合の手続に若干の変更が行われ、尚、一部の例外を除いて賃金が支払われないことが明らかにされました。(イ) 団体交渉以外の組合活動に参加する場合、まず、大会、執行委員会、中央委員会、支部委員会等組合規約に定められている正規の会合に参加するときは、組合から会社へ期日、場所、所要時間、参加者の氏名を届出る必要があり、その他の組合活動への参加はあらかじめ会社組合が協議して会社が認めた場合以外は許されません。(ロ) 就業時間中の組合活動に参加した場合、その時間の賃金は、勤務地で団交に参加するときを除いて支払われません。旅費はどんな場合でも支給されません。(四) ユニオンショップ条項の消滅 最後に無協約に伴ってユニオンショップ条項が消滅したことであります。すなわちこれまで『当社の従業員は組合員でなければならない。組合を除名された者は原則として解雇する』という条項により組合への加入は強制され、組合からの除名は直ちに従業員たる地位を失う結果となっておりましたが、今後は従業員の組合への加入又は脱退に会社は一切介入しないことになりましたので、たとえ組合を除名されても従業員たる地位にはなんら影響しないことになりました。結び 以上、無協約に至る経過及び無協約に関連して従業員の皆さんに知って頂きたい点を述べました。要するに従業員個人にとっては無協約の場合でも従来と殆ど変りがありませんので、無用に心配されることなく一日も早く労使関係の安定を実現することに協力されることを期待します。以上(別紙省略)」七月二三日付の「会社声明」の内容は「春以来続けられている労使間の紛争は今なお解決の見通しもなく、十八日から無期限のストに入っています。このことは会社にとっても、全従業員にとっても誠に不幸な事態でありますが、会社としては今後の経営を安定させるためには、やむを得ない犠牲と考えております。解体以来当社としては、労使関係については特に意を用いたつもりであり、従業員の待遇、厚生施設等についても、他社に比較して決して劣るものでなく、むしろ上位にあるといっても過言でないと考えております。しかし、その間の労使関係はややもすると安定を失い勝ちであり、特に昨年暮の賞与交渉以来の労使関係は全く不安定そのもので、回答前に実力行使に入るという非常識な運営が行われ、今回の交渉においても実質的な交渉の努力を怠りながら、一方において、実力行使に入る口実と手段を作ることにのみ奔走し、会社をして組合交渉団の交渉能力を疑わしめるような事態が、幾度か見られたことは事実であります。その間実力行使の弄びに明け暮れ、なんら成果を挙げ得ず、しかも実力行使の行過ぎは、当然自らの力の限界を越えることとなり、最近組合の上部団体への依存は著しいものがあり、従業員の労働条件の向上という目的は二の次となって、上部団体の指導通り闘争を続けることに窮々とし、指導力も責任感も全く喪失して、徒らに事態の悪化を促進せしめてきたことは従業員諸君が身をもって体験しているところであります。このような極端に不安定な労使関係が、従業員の待遇が良いと一般世間からいわれている当社になぜ起るのか、会社としては企業をまもるために、全従業員の将来の生活安定を守るために、その原因の排除に努力せざるを得ないのは当然のことであります。そして会社としては、その原因は、労使の協力を拒否し、むしろ経営者を敵対視して従業員の団結の力をその方向へ持って行くためにのみ利用する考え方にあると考えます。昨年暮の思慮なきストが一般従業員にどのような不利益になったのか、そして今回の組合の運営が組合内部に、どのような激しい批判となって現われているか、すべて徒らに平地に波乱を起し、経営を攪乱することを、その目的とする考え方に起因していると考えます。このような考え方に、会社としては、どうあっても妥協することはできません。経営をまもり、従業員を守るため、このような考え方とは、例え、ここで長い期間をかけても対決して行きたいと考えます。組合は会社が無協約にしたと言っています。しかし無協約というような事態に会社を追込み、その考え方を固めさせた原因は何か。それは昨年末以来の事実を回想して頂ければわかるところであります。又組合の指導層は無協約になると会社は勝手に解雇を行いうるのだ、と言いふらし、従業員を徒らに恐怖に追込み、その反対闘争に駆り立てています。しかし無協約になったからといって、当社のような会社がなんの故もなく従業員を解雇するかどうか、常識で考えてもわかることではないでしょうか。勿論会社は懸案の賃金、操業方式、協約乃至賞与の諸問題を一日も早く解決して、平和な安定した労使関係のもとに、この不況切り抜けに専念したいと考えております。しかしながら現在のような状態の続く限り会社としては協約を締結する意図もありませんし、賞与について回答することもできません。協約が労使の安定した関係なくしては締結されるはずのものでないことは、本来協約が平和協定であることを考えれば、自明の事柄であります。従って現在の事態を解決するものは、労使が同じ土俵の上で真剣に交渉のできる状態が一日も早く実現することしかないと考えます。以上会社の所信を述べましたが、当社の将来の経営の安定と、従業員の幸福をもたらすためには、この際何を考え、何を行うべきか、真剣に検討して頂きたいと思います。」八月四日付の「現段階における会社の態度」と題する文書の内容は「無期限ストライキに入って、既に十余日となりました。而もその間組合はなんらなす処を知らず徒らに無定見なストライキを強行するのみであります。このような組合の行き方に対する批判の声は漸く各方面にきびしく、先月初旬、本社の従業員が、大部分組合を脱退したのに引続いて、会社の態度を支持する空気は、この数日来各方面においてたかまってきております。即ち、苫小牧工場においては係長、上級職事務部門、山林部門及び運動部、更に現場各部門の組合脱退という事実として現われ一方春日井工場においても組合を脱退したものによって結成された従業員組合結成準備会の切なる要望によって一部マシンの稼動を始めるという具体的な活動となって現われて来ております。このように切迫した空気の中にあって、組合としては事態収拾の自信は全くなく、そのため焦慮と動揺をみせていますが、組合がその結果、窮余の策としてどのような姑息な手段をとろうともそれは単なる戦術の転換であって闘争本位の指導方針が、根本的に変更されたとは認められません。従って会社はこれと話合う余地は全くないし、又、そこから解決の方途は得られないと考えます。会社は、会社の経営に対する態度を支持するものとしか協力して行く事はできませんし、又、その方針による以外将来の経営の安定と自信は見出せないと確信します。即ち、会社としては、あくまでも経営を守り、従業員を守る為に、現在の組合の行き方に対しては、最後まで対決する固い決心のある事を重ねて明らかにすると共に、従業員諸君が、この重大な時に当り冷静なる判断を下し、勇気を以って行動されるよう強く要望するものであります。」八月一四日付の「会社声明、新組合の誕生に当って―会社は全面的に協力する」の内容は「六ヶ月以上にもわたる長い間の労使の紛争にも解決の曙光が見え始めてきました。そうしてその光は従業員自身の手によって日毎に強く大きく、なりつつあるようです。即ち八月四日に本社に新しい組合が結成されたのを手始めに、苫小牧工場は八月八日に春日井工場は八月一一日にそれぞれ新組合が誕生し、何れも夏期賞与の交渉を解決調印すると共に、生産再開を目ざして未解決の諸問題解決のために力強い第一歩を踏み出しました。新労働組合は、『我々は生産に協力することによって、従業員の生活条件の向上をかちとって行きたい』と、卒直に労使安定の基本方針を明かにしています。会社も、この様な考え方こそ労使に共通した立場であり、その上に立って始めて経営も安定し従業員も守られて行くものと考えます。従ってこの様な新組合のあり方には今後会社としても全面的に協力し、一日も早く平和な労使関係を確立するため努力して行く方針であります。現在行われている一部の職業的極左分子の指導による闘争が既に力による闘争の限界を越えて暴力と破壊の状態にまで至っており、これが王子製紙従業員のとるべき行為かと外部からも非難されています。心ある従業員の正しい批判の声を恐れて団結と云う美名にかくれ、言論封殺に近い統制を加えそれでも及ばないときは個人生活にまで立入って、暴行脅迫を敢てし、果ては同じ従業員への食糧搬入をも阻止すると云う様な全く常識で考えられないような、旧労働組合の非人道的行為に誰が共鳴することが出来るでしょうか、而もこれ等一部指導者は果して事態解決後に従業員にどのような責任をもつのでしょうか。又そのような責任をもちうると信頼出来る人達かどうか、よく考えてみてもらいたいと思います。勿論当社の従業員はこの様な闘争に心から従っているものとは会社は少しも考えておりません。暴力の前にやむを得ず心ならずも闘いを強制されているこれ等の人々にも既にその実体がお解りになりつつあると思いますが、会社はこの様な行為が皆さんの生活を破壊に導くものであることを一番心配しているのであります。皆さんの生活を犠牲にし、王子製紙従業員としての誇りを捨ててまでどうしてこの様な無暴な闘争について行く必要がありましょうか。今こそ皆さんの将来の為に大勇をもって善処される時期であると考えます。会社としてはこの様な暴行と強迫の中で心から企業と従業員の生活を憂いあらゆる障害を乗り越えて今回の新組合を作られた勇気と情熱に対して、重ねて満腔の敬意を表するものであります。新組合の誕生に当り会社は旧組合との対決の決意を益々強くすると共に、新組合との協力により新しい労使関係が確立され、一日も早く生産が再開されることを期待するものであります。」であったこと、以上の事実が認められる。なお≪証拠省略≫中には、春日井工場においては、被申請人の手によって前記春日井工場長名の文書等とともに本社従業員団又は新組合結成準備会名の王子労組又はその幹部を誹謗中傷し、夏季一時金の支払等利益による誘導等を内容とする文書が連日のように春日井支部所属の組合員らの自宅に送付されたとする部分があるが、右文書の送付が被申請人によってなされたとの点は、証人藤田和己の証言に照らしてそのまま採用することができない。以上の事実と前記第二款及び第三款において認定した諸事実を総合して考えると、右のように本件争議過程において王子労組員の大量脱退を出すにいたったのは「紙パ統一闘争」としての「幅広い階級闘争への発展」を標榜し、本闘委の闘争方針に反対であるか又は批判的である組合員らの意思を無視し又は積極的に封殺し、強引に長期闘争を推進しようとした本闘委ないし王子労組の下部機関の態度が、結局右批判分子としての組合員らを王子労組から離反させ、結果的には王子労組脱退、新組合結成へと導いたものと認められるのであって、右脱退等の現象の発現については王子労組の一部組合員らの意思を無視した強烈な闘争方針ないし闘争指導が寄与するところ大であったというべく、その責任を全部被申請人に転嫁することはできないし、また被申請人が前記のように六月四日以降八月一四日までの間に、その全従業員に対して印刷配布した「会社見解」その他の文書について見るに、その内容はいずれも前記のとおりであって、このうち六月四日付「会社見解」は第二款、第三、一、8において認定したとおり同日の団体交渉の席上被申請人が明らかにしたところをそのまま公表し、「無協約について」と題する文書は、労働協約失効の経過と右失効が被申請人と従業員間の雇用契約に及ぼす影響についての広報資料にすぎないのに対し、七月二三日付「会社声明」及び八月四日付「現段階における会社の態度」と題する文書の内容は、本件争議長期化の原因は、挙げて王子労組が被申請人を敵視し闘争本位の指導方針を堅持している点にあるなどとして王子労組の態度を厳しく論難するとともに、被申請人としても右王子労組の態度に最後まで対決する用意があるとし、八月一四日付「会社声明」は、被申請人に協力的な新組合を結成した従業員らの勇気を賞讃する反面王子労組の無責任な闘争指導を激しく非難したうえ、王子労組との対決姿勢は強めるが、新組合とは協力して生産を再開したいという趣旨のものであって、前二者とは些かその趣を異にするものであるが、右は、以上の各文書の内容自体によって明らかなように、王子労組に所属して本件争議に参加している従業員に対し、その故をもって将来不利益な扱いをするなど示唆して王子労組の正当な争議権の行使を阻害することを目的としたものではなく、前記第二款及び第三款において認定した諸事実との関連においてこれを読めば、王子労組の不当な争議指導方針を非難し、その所属組合員に対して翻意を促すための説得活動にすぎず、いわゆる言論の自由の範囲に属するものというべきであって、強ちこれを不当とすることはできないし、また右文書において生産再開を云々する部分があるけれども、被申請人が叙上認定の経過により王子労組を脱退した従業員らを充用して操業を再開することが必ずしも違法又は不当となし得ないことはすでに述べたとおりであり、その他に被申請人が右のように王子労組を脱退した従業員ないしは新組合員を使用して操業を再開することの許されない特段の事情につき何らの疎明のない本件にあっては、被申請人が右のとおり生産再開を云々したからといって、そのこと自体を直ちに不当とすることはできないし、また、右新組合結成の推移にかんがみれば、右各文書が、申請人らが主張するように被申請人による王子労組の組合員に対する組合脱退ないし新組合結成を指示した文書と見ることは当を得たものではない。また、≪証拠省略≫によれば、前記「討論しよう」と題する印刷物は、七月一七日苫小牧工場の製造職場においても従業員に配布されたことが認められるが、その配布数量、その配布が被申請人によってなされたこと及び職場集会において右印刷物の記載内容が討論されたことを認めるに足る疎明資料はない。

そのほか、申請人らは被申請人が王子労組との団体交渉を拒否しながら新組合と団体交渉を重ね夏季一時金等に関する交渉を妥結させたことを非難するのでこの点について見るに、被申請人が新組合結成後直ちにこれと団体交渉して夏季一時金等に関する交渉を妥結させるにいたったことは右に見たとおりであり、また被申請人が王子労組の申入れにかかる団体交渉を拒否したことは、第二款、第三において見たとおりであるが、叙上認定のとおり王子労組を任意に脱退した従業員らは自主的に新組合を結成しているのであって、右のごとく新組合が成立している以上、被申請人がこれを団体交渉の相手方とし、その間において交渉事項につき交渉を妥結させたとしても、そのこと自体を取あげて違法とも不当ともできないし、また被申請人が王子労組との団体交渉を拒否した点についても前記第二款、第三及び本款、第二において認定した諸事実を総合して考えれば、王子労組の被申請人に対する団体交渉の姿勢は、そのほとんどすべての場合、自組合の主張を堅持し被申請人側にその応諾を求めて譲らず、団体交渉による本件争議の平和的解決を標榜しながらも、その実は組合員による度重なる違法な実力を背景として申請人側にいわば無条件的な屈服を強いる態のものであったことが認められるのであって、被申請人がかかる団体交渉を拒否したからといって、これを違法とすることはできない。

3 そして申請人らは、その他の諸種の事情の存在を指摘して、本件懲戒解雇が被申請人による王子労組破壊工作の一環であり王子労組を潰滅させることを唯一の目的としたものであることを強調するのであるが≪証拠省略≫によれば、本件懲戒処分後に行なわれた国会議員選挙において、苫小牧市においては新組合が支持する民社党候補が落選し、王子労組が支持する社会党候補が当選し、当時「身は新労、心は王労」等報道されたことが認められるのであるが、すでに第一款、2において見たとおり、本件争議開始時に約四五〇〇名であった王子労組の組合員数は、その後の脱退によって本件懲戒解雇のなされる直前の昭和三五年六月においては五四二名に減少(これに対し新組合員数は三八八八名)し、その被申請人の全従業員中において占める割合は、≪証拠省略≫によれば、本件争議開始時九三%であったものが右昭和四四年二月には二・八%(これに対し新組合員の占める割合は八九%)まで下落したこと、この減少傾向は新組合員の増加に伴うものであって、それが殊に顕著となったのは昭和三五年一月であって、以後更に減少の一途を辿っていたことが認められるのであって、他の本件の全証拠を検討して見ても、右減少が申請人の解雇に関係あるものと認める疎明資料もないし、また、本件懲戒解雇が申請人らが主張するように王子労組の破壊のみを目的としてなされたものと認めるに足る疎明資料もないのみならず、前記第三款において認定した王子労組の組合員らの違法行為の量及び質に照らし、なお本件懲戒解雇が解雇権の濫用にあたると認めるに足る資料もない。従って、この主張もまた採用の限りではない。

(むすび)

以上のとおりであって、結局申請人らが主張する被保全権利の存在については、その疎明がなかったことに帰着し、しかも保証を立てさせて右疎明にかえることは相当ではないから、本件仮処分申請はいずれも理由がないものとして却下することとし、民訴八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己 裁判長裁判官中川幹郎は転補につき、裁判官大喜多啓光は転官につき、いずれも署名押印することができない。裁判官 原島克己)

〈以下省略〉

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